先輩パパとママの毎日コラムvol.10

なんとなくおかあさん「「産後ひと月」という嵐。」

2016/5/19
なんとなくおかあさん「「産後ひと月」という嵐。」 なんとなくおかあさん「「産後ひと月」という嵐。」

二人の子どものママでもあるライター・小宮山さくらさんによる等身大の子育てコラム。

出産という人生の一大事を終え、待望の我が子とご対面。我が子を胸に抱くよろこびにじーんといつまでも浸っていたいところですが、ひと息つくひまもなくすべてのお母さんが突入しなければならないのが、「産後ひと月」という名の嵐です。産じょく期と呼ばれる、産後の数週間。出産で酷使された母体を回復する目的もあり、基本的にお母さんは最低でも1ヵ月間は外には出ず、家でゆっくりと休んでいなければいけないのですが……。

ゆっくりなんて、してられるかーい!

と、ベタなツッコミを入れたくなるほど、産後ひと月は大変です。

「囚人生活」
「地獄」
「おっぱいマシーン」
と、ここに書くのがためらわれるほど恐ろしい言葉の数々を先輩ママさんたちから聞き、戦慄していたわたしですが、実際に自分が体験してみたら、ああ、誇張でもなんでもなかったんだなあ……と納得。

まずは、おっぱい。そしておむつ替え。日に一度の沐浴。その合間に、自分の睡眠と食事。

基本的には、それだけの、超シンプルライフです。だけど、このシンプルさが、なんていうか、長いトンネルのように、はてしなく、はてしないのです……。

来る日も来る日も、おっぱいをあげ、泣いたら抱っこをしてひたすらゆらゆら、ああ、どうしたら泣き止むのかな、角度が悪いのかな、なんて思っているうちにまたおっぱい、あ、やっと寝てくれた、と安堵するもつかの間、また泣き出し、おっぱい、そしておむつ、おっぱい、おむつ……。

まだまだちいさな赤ちゃん

滅私奉公という言葉がありますが、まさにこの感じ。まだ自分ではなにもできない、産まれたばかりの我が子の命を次の日に繋ぐことが、自分に課せられた最重要ミッションです。

出産を経て自分の身体もボロボロですが、好きなだけ眠るヒマなんてもちろんありません。ノーメイクを通り越し、化粧水をつけるヒマもなく、お肌はカサカサ、髪はボサボサ。そしてわたしの場合、大きな声では言えませんが、出産時のいきみが原因で深刻な「おしりの病気」になってしまい、もう、これが、本当に本当に辛かった。(後で聞いてみたところ、わたしと同じ思いをしたお母さんの多かったこと! しかも出産時、他の人におしりを押さえてもらうことで回避できることもあるらしく、「そんなの聞いてないよ!」と後で地団駄踏みました。もっと、育児書などで大きく取り上げてほしいものです……とほほ)歩くのも激痛、座るのも激痛、トイレのたび便器は出血で真っ赤に。ひたすら横になってうめいていたかったのですが、赤ちゃんの授乳タイムは容赦なくやってきます。この時期の赤ちゃんはまだ表情もとぼしく、もちろん会話もできませんから、なんていうか、報われている感覚がまだ少ないんですよね。もちろん赤ちゃんはたまらなく可愛いんですが、時折、なんともいえない孤独感に襲われて涙した夜もありました。家族のサポートがあったとはいえ、つらいものは、つらかった。

外の光にもあたらず、昼も夜もよく分からない状態で、いつも眠かった。おっぱいが痛かった。孤独だった。不安だった。小さな命をこれからずっと自分が育てていけるか、いつも心配だった。

そんなこんなでひと月がたち、ひとまずのゴールでもある、生後1ヵ月の乳児検診も無事終了。外出の許可も出て、夫に子どもを見てもらい、初めて自分だけで近所を散歩してみました。まずは、赤ちゃんを連れていない自分一人だけの状態に違和感を感じすぎてどぎまぎ。そして、久しぶりに見る空の青さにうろたえ、太陽のまぶしさにひるみ、家から徒歩5分のコンビニに入っただけで、大感動。

整然と並ぶお菓子、カラフルな飲料、にぎやかなお弁当、おしゃれな文房具。た、楽しい。そして、美しい……。商品すべてがキラキラして見え、誇張無しで「なに、ここ、表参道!?」と思ったほど! 

このキラキラマジックは長続きしませんでしたが、このとき感じた世界のまばゆさは、いまも強烈に覚えています。今思えば、それほど、外界との接触に飢えてたんですね、わたし。

そして、不思議なことに。

いまになってあの日々を思うと、もちろん大変だった記憶もあるにはあるのですが、なんとも甘美であたたかで幸せな記憶ばかりが、ふんわりと思い出されるのです。

眠る我が子がか弱すぎて、呼吸をしていないんじゃないかと不安になり、何度もその小さな鼻の前に手の平をあてて、寝息を確認したこと。 お互いに慣れない授乳で、おっぱいの先が切れてしまい、授乳のたび、激痛に涙しながら軟膏を塗ったこと。
眠くて眠くて、授乳パジャマの前のボタンを締める気力すら残らず、いつも胸をはだけながら、分刻みで睡眠をとっていたこと。 味を楽しむ感覚もなく、赤ちゃんが寝た隙にごはんやお味噌汁をかき込んだこと。
まだ首の座っていない我が子を不器用に抱きながら、恐る恐るベビーバスにいれたこと。
友人たちの美味しいご飯の写真やおしゃれなコーディネイトのSNSを見ながら、自分ひとりが遠いところへ来てしまった気がして、少し寂しくなったこと。

大変な日々も想い出になれば、すべて愛おしく

無心におっぱいを飲むその小さな顔を、何度も何度も眺めたこと。 ちんまりと並ぶ小さな爪を眺めながら、「よくできた精巧なお人形みたいだなぁ」と不思議に思ったこと。
一体どこを見つめているのかわからない、ブルーがかった瞳の奥に吸い込まれそうになったこと。

自分がおばあちゃんになっても、このときのことを覚えておきたいと思ったこと。

子育ての記憶は慌ただしくて、毎日が上書き保存だから、いつもはすっかり忘れてしまっているけれど、こうして文章を書いたり、当時の写真を見たり、育児日記を読み返したりするたびに、あのとき、2人だけで過ごした静かな寝室のしんとした空気や、新生児特有のほぎゃほぎゃという泣き声や、おっぱいをふがふがと必死で飲んでいる我が子の小さな小さな鼻息が、脳裏に鮮やかによみがえります。

夜中に泣き出した我が子を抱きながら、ひたすら身体を左右にゆらしていた、あの静かなひととき。
それは、どんなに願っても二度と戻ることのできない、愛しい時間です。

いまではすっかりおしゃまな少女に成長した5才の娘と、目を離すとすぐに駆け出すやんちゃな2才の息子の相手をしながら、街中で新生児の赤ちゃんを連れたお母さんとすれ違うとき。

ふと、なんともいえない甘く切ない気持ちになるのです。

小宮山さくら

PROFILE

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ライター。クリエイターへの取材やインタビューを中心に、『カメラ日和』『tocotoco』(第一プログレス)などの雑誌、書籍、広告などで活動。参加書籍に『無名の頃』(パイインターナショナル)、『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)、『エジプト塩の本』(美術出版社)、『猪熊弦一郎のおもちゃ箱』(小学館)など。目下、2児の子育て中。

(制作 * エチカ)

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