先輩パパとママの毎日コラム
アムステルダムに暮らしながら写真家・文筆家として活動する小野博さんの、愛娘・ハルちゃんとの暮らしに、弟・コウちゃんが加わりますます賑やかになった小野家の日々。
赤ちゃんは大体3ヵ月になると笑い始める。それまでの、寝ているか、ぼんやりしているか、泣いているだけの赤ちゃんと比べると、笑っているとぐっと人間らしくなった気がしてくる。そして親は子どもが笑っているだけで嬉しくなってくる。
娘もよく笑っていた。でも息子はもっともっと笑っている。というか、起きてから寝るまでずっと笑っていると言った方が正しいくらい笑っている。だから急に笑わなくなると、あ、病気なのだなとすぐ分かる。そして少しでも回復するとまた笑い始める。たとえば、風邪で気分が悪くなって、息子はちょっと吐いた。すると少しすっきりしたのか、ニコッと笑いかけてきた。「あら、さっぱりしてよかったね」と話しけると、また吐き出し、再びニコッと笑った。息子にとっては笑顔が健康のバロメーターである。
そんな終始笑顔の息子だから、外出しても人々に笑顔を振りまきまくる。特に路面電車に乗ると息子は周りの人に微笑みかける。すると人々は、はにかみながら息子に手を振るのだが、それを見た息子はさらに手と足をバタつかせてながら、満面の笑顔を振りまいたりする。周りの人がすっかりリア充の顔になっている。この赤ちゃんの笑顔の圧倒的な肯定感はなんだろうと思う。
でも息子も赤ちゃんが好きそうな人にだけ笑顔を振りまけばいいのだが、強面で赤ちゃんに一切興味なさそうな若い男性にすら果敢に微笑みかけたりする。彼らは、最初は無視しているのだが、お構い無しに笑い続ける息子に根負けする。息子の顔をチラ見し始め、トラムを降りるときにちょっと口角を上げて微笑んで去っていったりする。
ただ3才の娘だけは息子の笑顔に厳しい。ある日、娘が一生懸命作り上げた積み木を息子が一瞬で破壊した。娘は激怒し「もう、こうちゃん、やめてよ」と怒鳴った。でも息子は娘にニコニコと笑いかけていた。すると娘は息子を指差して「笑ってもダメ!」と言い放った。しかし、息子は相変わらず笑いながら娘にハイハイで突進していった。するとあれだけ怒っていた娘も「もう、こうちゃんもうしないでね」といいながら息子を可愛がっていた。
人は赤ちゃんの屈託のない笑顔に弱いのだ、と改めて思った。