先輩パパとママの毎日コラム
アメリカ・オレゴン州にあるアシュランドという芸術活動が盛んな美しい都市で暮らすセキアキコさんのアメリカでの子育てエピソード。
(前編のつづき)そしてついに出産当日。予定日を1週間過ぎていたこともあり、この日は昼間に精密なエコー診断を受けていました。夕方、検査結果を伝える産婦人科からの電話があり、「できるだけ早く出産しないといけないので、今から産院に来てください」と言われ軽くパニックになった私は「あの……でも今クッキー焼いていてオーブンの中で……」というよくわからない返答をしてしまい……。すると先生は落ち着いた声で「それでは、焼きあがったら来てください」。
実はこのやり取りのお陰で、私はかなり心を落ち着かせることができました。
そんなことより今すぐ!と言われていたら、もう心臓バクバクだったと思います(私の場合、1分1秒を争うような状況ではなく、「とにかく今日中に赤ちゃんには生まれてもらわないといけない」ということだったので、クッキーが焼けるまでの15分間は待っても問題ないと先生が判断されてのことです)。そして焼きあがったクッキーを缶に入れて、お守りのように抱えて分娩室へと入ったのでした。
それからまず病院のベッドにお気に入りのキルトを掛け、促進剤を使ってのお産が始まりました。
すると、普段はそんなこと全然気にしないのに、陣痛が強くなるにつれて部屋の明るさが不快に。なので途中からは部屋の電気は間接照明だけにしてもらい、かなり薄暗い部屋でのお産となりました(このときようやく、バースプランの項目の意図が掴めたのでした)。
でもまあ、蓋を開けてみたら、痛くてクッキーなんて食べている余裕はないし、キルトも陣痛に耐えるのに邪魔になって後半は部屋の隅っこに追いやられたし、いきみ始めてからは吸引が必要だったこともあって部屋の電気は全部ついてたような気もするし(ここはさすがに記憶が曖昧)、“やわらかな明かりとほのかなクッキーの香りの中、繊細なアンティークキルトに包まれて出産……”なんてことには全くならなかったのですけど(笑)。それでもやっぱり、このひとつひとつの些細なことが自分の出産にとても役立ったという気持ちは今でもあります。
もしもまた出産するときが来たら……そのときは分娩室をどんな風にカスタマイズするか、ゆっくり楽しく考えたいと思います。