編集者の池田圭さんによるパパコラム。今回は出産の様子と、奥さまと赤ちゃんが里帰りをしている間の過ごし方についてのお話です。
娘が生まれた2022年の夏は、だいぶコロナ禍の規制が緩んできていたように思います。しかし、医療関連機関の対応はまだまだシビアな時期でして、出産立ち会いは夫だけはOK。お見舞いは退院まで家族も友人もNG、というルールでした。
うちは近所の無痛分娩のクリニックで出産しました。我々夫婦にとって出産は初めての経験でしたが、当日は夜中に妻の陣痛が始まったときもワタワタする間もなく着けたので、家から近い病院は安心でした。今思うと大規模な病院ではなかったことも功を奏して、出産に立ち会えたのかもしれません。
初めて分娩室に入った印象は、ハイテク機器がたくさんあるなあということ。これからここでどんな最新鋭の処置が行われて出産にいたるのか、初めて見るいろいろなものに興味が湧いて、無駄にキョロキョロしてしまいます。
……そうこうしている間に、部屋の隅から出産介助ロボット・アンザン君が出てきて、呼吸が乱れる妻の手を取り、「ヒーヒーフー、ヒーヒーフー」と深い呼吸をサポート。カラオケの採点機能よろしく、「先ほどのあなたのヒーヒーフーは95点です。もうベテランクラスのスキルですね!」と場を和ませてくれたり、巨大な吸引機のようなマシーンで赤ちゃんがスポーンと吸い出されるのでは?……
しかし、そんな私の期待に反してロボットやマシーンは登場せず、最終的にお医者さんが分娩台に乗って妻のおなかを上からギュウギュウと押して赤ちゃんを押し出すという、とてもアナログな方法で我が子は外の世界に出てきました。
勝手に思い描いていた出産と現実はなんだか少し違ったのですが、娘の誕生に関わってくれた皆さま、大変ありがとうございました。
出産に立ち会う選択をしたことは、私にとってとてもよい経験でした。妻があんなに頑張っている瞬間に立ち会えるなんて、この先の人生でもそうそうないことでしょう。
頑張りの末に生まれてきた、真っ赤な我が子のかわいかったこと。妻と2人、看護師さんに「そろそろ、いいですか?」と言われるまで、分娩室で抱っこしたり、写真を撮ったり。病室に移った後も、「旦那さん、そろそろ帰ってもらえますか?」と言われるまで、3人で幸せな時間を過ごしました。
産後5日間、入院している間は着替えや差し入れを病院の入り口で看護師さんに渡すだけで、子どもには会えない日が続きます。妻から送られてくる娘の写真や動画を、一人でニヤニヤと眺めるのが毎晩の晩酌のお供になりました。
お盆明けの退院日。とても暑い日だったように記憶しています。里帰りのために、迎えに行った足で2人を妻の実家に送り届けたのですが、車の運転で緊張したのは免許試験のとき以来です。
ここから1ヵ月間、家に残された私は独身の時代以来の気ままな一人暮らしとなります。密かにこの日が来るのを、どれだけ楽しみにしていたことか!
好きなだけ友人と飲みに繰り出し、趣味のサーフィンや山登りに遠出しようと、出産前の私の頭の中は遊びの計画でパンパンでした。
しかし、結果から言うと私の気ままな一人暮らしは計画通りにはいきませんでした。家にぽつんと一人になると、なんだか娘の顔が見たくなってくるし、また抱っこしたくなってしまうのです。結局、小一時間ほど離れた妻の実家に足繁く通う始末。仕事の都合で実家に行けない日も、2人が戻ってきたときのための準備や買い出しに忙しく、遊んでいる暇はなく、あっという間に1ヵ月が過ぎていきました。
もしもあのときにもう一度戻れるなら、改めてあの1ヵ月の夏休みを遊び直したい。でも、きっとまた娘の顔を見に行ってしまうに違いありません。
PROFILE
池田圭このライターの記事一覧
編集者、ライター。40才を越えてから第一子を授かり、仕事そっちのけで溺愛する毎日を送る。共著に『無人地帯の遊び方』(グラフィック社)。編集を手掛けた書籍に『焚き火の本』『焚き火料理の本』(すべて山と溪谷社)など多数。
(制作 * エチカ)