家事ジャーナリストとして活動している“スーパー主夫”の山田亮さん。インタビュー記事全3回の最終回は、家事育児の役割分担やコミュニケーションのコツなどについて伺いました。「家事ではなくて、まず“自事”をする」と話す山田さんならではの、育児やコミュニケーションのヒントをたくさん聞くことができました!
ーー一般的には、パパが仕事で忙しく、なかなかママとコミュニケーションが取れないことが多いですよね。子どもとひたすら向き合っているママが孤独感を深めたり、パパが子どもに関われないことで家庭に居場所がなくなったりするケースをよく聞きます。一般的な男女の役割とは別になりますが、研究者として超多忙な奥さまと、主夫として家事と育児に向き合っていた山田さんは、どのようにコミュニケーションを取っていたのでしょうか?
山田さん
出産当時は大学の助手だった妻は、助教授、教授とステップアップし、仕事内容も研究や大学のことだけに留まらず、省庁との折衝など幅もスケールも広がっていき、どんどん忙しくなっていました。それでも、出張以外では必ず夜は帰ってきたので、僕や子どもと話をする時間はありました。ほんの少しの時間でも、顔を見てコミュニケーションを取り、その日の出来事や子どもの成長を共有できると全然違いましたね。ほんのわずかな時間でも、夫婦でその時間を大切にできれば、家族の絆ができると思います。家族としてつながっている実感があれば、ちょっと大変なことがあっても乗り切れます。
ーー山田さんのお子さんは女の子ですが、娘さんにとってパパとママはどのような存在なのでしょうか?
山田さん
僕は細かいんですよ。あれしなさい、これしなさい、あれはもう終わったの?などと口うるさく言ってしまうのは僕です。妻は細かいことは気にしませんが、怒る時はドカンと怒ります。妻に怒られて、僕がいる部屋に逃げ込むこともありましたね。おそらく娘は妻のほうが怖いのではないでしょうか(笑)。娘に最初に彼氏ができた時も、僕に報告しながら「ママにはやんわり伝えておいて」とお願いされたくらいなので。
ーー自然と役割分担されているんですね(笑)。ですが、パパとママの役割分担については、悩んでいる方も多いようです。山田さんは、育児の役割分担についてはどのように考えますか?
山田さん
そもそも、育児も家事もとても大変なことなのに、今の時代の担い手は基本的に二人ですよね。少人数なので、二人ともやらなければ回らないんですよ。その事実を最初にしっかり認識して、育児がスタートする最初から二人でやっていかないと、ママが体調を崩したらどうするの?二人目が生まれる時どうするの?と思います。
また、育児も家事も「点」ではないですよね。パパ友の飲み会でも「俺は子どもをお風呂に入れている!」と自慢するパパがいましたが、チャポンとお風呂に入れて、洗ってあげて、あとはママよろしく!と赤ちゃんをママに渡すだけでは、お風呂に入れたと言えないですよね。お風呂の前に赤ちゃん用グッズとタオルと着替えを用意して、お風呂の後は体をふいてスキンケアをして着替えをするまでが「お風呂に入れる育児」です。そこまでやっているパパはそれが日常になっているので、逆に飲み会で自慢しません(笑)。
これは、すべての家事にも共通しています。僕はよく「家事ではなくて、まず“自事”をする」と言います。「自事」というのは、自分のこと、という意味です。家事も点ではなくてつながっているので、ひとりひとりが自分のことをしっかりやると、家事は楽になります。例えば、服を脱ぐ時は洗濯しやすいように、オモテウラを揃えておく。食器を片付ける時は洗いやすいように、汚れを水で軽く落としておく。そんな「自事」を続ければ、家事はそんなに頑張らなくてもできることになります。役割分担も大事ですが、家事をする人を思いやる「自事」も心がけてほしいですね。
ーーなるほど!「役割分担」と肩肘張らなくても、できることはたくさんありますね。
山田さん
自然と役割分担ができたり家事をする人のことを思いやったりできるのは、自事ベースで、家事は気が付いた方がやってるだけです。僕たち夫婦の場合は、出会ってから結婚までわずか数ヵ月と超スピード婚だったのですが(笑)、子どもができたのが3年後。つまり、結婚してから出産までの3年間二人で暮らしている間に、いろんな話をしたり経験をしたりして、「コミュニケーション貯金」を貯めていたんですよ。この貯金が大きくて、子どもが生まれると話すより寝たかったりして、二人のコミュニケーションが取りにくくなりましたが、貯金の切り崩しと自事で、なんとか育児を進めてきました。
ーーこれから出産を迎えるママ、パパにとって、とても参考になるお話ですね!他に、夫婦が一緒に家事、育児をしていく中で大切なこと、円滑に過ごすコツはありますか?
山田さん
昔は、農業や商売など家族揃って「家業」をするのが普通でした。24時間家族がずっと一緒にいて、いろいろな課題を協力し合いながら乗り越えることで、自然と家族の絆が生まれていたと思います。しかし、現代はひとりひとりがバラバラの仕事。家族が時間と経験を共有できるのは、家事と育児くらいです。そう考えると、家族としてつながりが持てる貴重な機会ですよね。ママとパパがお互いにそう考えて家事と育児を一緒にやれば、つらいことではなく楽しいことになりますし、気分も良くなります。親がゴキゲンなら子どももゴキゲンになります!テーマパークや旅行などの家族サービスで、ゴキゲンを取らなくても大丈夫です(笑)。
ーー家にいる時間が長くなった今、ママとパパが一緒に家事、育児に向き合えるチャンスですね!
山田さん
家族の思い出づくりや絆を深めるために、旅行などの非日常でキッカケを作ってきたパパには試練かもしれません(笑)。ですが、年に数回の非日常よりも、毎日の日常のほうがチャンスが多いですよね。改めて日常で家族の絆を深める良い機会だと思って、家事や育児に向き合えると良いですね。
PROFILE
山田亮(やまだりょう)このライターの記事一覧
家事ジャーナリスト、スーパー主夫、社会福祉士。 大学助手だった妻と結婚し主夫に。ホームページ上で綴った家事・育児記録が新聞社の目にとまり執筆活動を開始。ロジカルな視点で「楽に家事をする」方法 を日々実践し、「楽家事ゼミ」を主宰。男性の家事・育児参加、男女共同参画に関する講演活動や執筆活動等も行う。現在、妻・娘と京都市在住。
東京新聞、中日新聞、日経新聞紙上で家事について連載中。
https://rakukajiseminar.com
(制作 * OfficeTO)
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