自然豊かな信州でネイチャーガイドをしながら2児の子育てに奮闘中の阿部菜々恵さん。今回は妊娠中に安産祈願をする戌の日についてのお話です。
戌の日。安産祈願をする戌の日が安定期の5ヵ月の頃ということもあり、私はその日の来るのをとても待ち望んでいました。その頃はほんのすこーしですがおなかもふっくらし始め、胎動もだいぶわかり、おなかの中に赤ちゃんのいる日々にもだいぶ慣れて少しほっとしてきていました。妊婦であること、おなかに赤ちゃんがいることの幸せをじんわりと感じることができてきた頃だったと思います。
さて、戌の日のお詣りには両親と一緒にプチ旅行のように、長野県諏訪市にある諏訪大社下社春宮様へ行くことに決めていました。温泉や諏訪の街並み、そして諏訪湖のゆったりとした空気感も大好きで、度々訪れている場所です。
私が春生まれのせいか、なぜか春宮様にあたたかい雰囲気を感じ、今までいろんな節目節目にお詣りをしてきました。そして今回は安産をお願いして…。春宮様の周りは立派な巨木で覆われ、一歩、鳥居の中に入るととても厳かで神聖な気持ちになります。空気が透き通ってシンとして伸びゆく大木を見上げながら深呼吸をしたくなります。そして拝殿の前に立つと、いつも迎え入れていただけているようなあたたかな気持ちになるのです。
この時は安産祈願だったので、お諏訪様の御母神の子安様にもお詣りをしました。ここでは底のない柄杓をお供えします。この柄杓は、水が通るように安産で産まれることを願って底がないそうです。とても面白いですよね。柄杓には、両親に願いを書いてお供えしてもらいました。私たち以外にもたくさんの柄杓があり、願いがそれぞれ書かれていて、たくさんの産まれ来る命があることを感じ、嬉しく、そしてみんな元気で産まれますようにとお祈りしました。

そしてその春宮様の境内から少し歩くと清らかな川が流れ、朱塗りの橋がかかっています。渡ってしばらく川沿いを歩くと、青い稲穂の田んぼの中にどーんと大きな、そしてちょこんと小さなお顔がのったユーモラスな石仏が見えてきます。「万治の石仏」というのですが、願い事を唱えながら三周するとよいとのことで、夫と並んで、おなかの赤ちゃんが無事に育ちますように…元気に産まれてきますようにと願いながら…ぐるぐる回りました。
終わったあと、石仏にふれて、そのお顔を見たら、なんだかとってもほっとしました。そして、もう、きっと大丈夫!何か心配事があっても子安様や石仏様が守ってくれる。私を産んでくれた両親が祈ってくれたのだから!と感じることができました。お医者様や家族の支えも出産や育児にとってなくてはならないものですが、目に見えないけれど心の拠り所って大切だなあと妊婦になって感じた日々でした。
命が自分の中に宿ること、そして産まれてくること、まだまだ人の力ではわからないこともたくさんあるという妊娠、出産のこと。この日はちょっとだけ、神様と会話できたような、不思議な1日でした。

その後は、これから産まれてくる我が子のことを話しながら諏訪湖のほとりを父と母と夫と飼い犬とともに歩き、とてもいい時間を過ごすことができました。
水のある場所、というのもいつも大好きですが、何か妊娠時に特に行きたくなった場所でした。人は水から産まれてくるからかしら…。そして、おかげさまで元気に産まれてきた息子は、諏訪湖にはじめて来た時、母なる海に帰るように…あっという間に湖へ入って遊んでいました。
今度の夏は娘も連れて湖へ行こうかな〜!あ、もちろん春宮様にも♪


PROFILE
阿部菜々恵このライターの記事一覧
ネイチャーガイド/保育士/野草ハーバリスト
道草を愛でること、食べることがライフワーク。軽井沢周辺の森のガイド、森のようちえんの講師などを行う。子育てや暮らしの中で美味しく、楽しい自然の楽しみ方を提案。野草茶、野草料理などのワークショップなども行う。下見と味見は2016年生まれの食いしん坊な息子と2021年生まれの娘と共に。
(制作 * エチカ)