札幌で長く続く絵本とおもちゃの専門店「ろばのこ」代表の藤田進さんは、子どもと大人のための月刊新聞の編集長も務めるバイタリティあふれるお父さん。今回は、3人目に小さな歯が生えてきたころの、子どもたちの関わりを通して感じた、何気ない日常の気付きのお話です。
次女に口の中に、可愛らしい歯が生えてきたので、歯ブラシを用意しました。我が家は3兄妹。自分に歯が生えてくる前から、毎日の生活のなかで、兄姉が「甘いもの食べたんだから、ちゃんと歯磨きなさいよー」とか「本当に磨いたの?もっと丁寧に磨かないと虫歯になっちゃうぞ」などと言われながら、大人に仕上げをしてもらっている様子を見ているので、自分用の小さな歯磨きがもらえた時には、とっても嬉しそう。
実を言うと、まだ歯が生え始めなので、歯ブラシも必要ないほどなのですが、自分の歯ブラシをもらう数日前に、お兄ちゃんの歯磨きを手伝ってくれたのです。その様子をみて、買ってあった歯ブラシを出すことにしました。
この時、生後10ヵ月。生まれてまだ300日ほどしか生活をしていない小さな人なのですが、自分の周りで起こっていることをよく見て、何をしているのか、その理由をよく考えています。「あの小さな道具はなんだろう?」「 あの口の中にあるのは何かな? 」「やってみたいなぁ」と、そんなように見えるのです。そして、とうとう歯ブラシを手にして、同じように真似をしてみます。
大人になると「他人の真似をする」ことにネガティブな印象を持つ人もいますが、乳児にとっては、何事も真似から始まります。とにかく真似をしてみる。他人の表情をみて、目をつぶったら、自分も目をつぶってみる。舌を出したら、自分も舌を出してみる。そんな具合です。当たり前のように見えますが、どうして見ただけで自分も同じことができるのか不思議に思って調べてみると、ミラーニューロンの存在を知りました。他人がしている動きを見て、それを自分の事のように共感することができる能力に関係がある神経細胞です。脳って不思議!
真似をしているのは次女だけではありません。長女は、お父さんとお母さんの真似をして、妹に仕上げの歯磨きをしてくれました。とても丁寧に上唇をめくりあげて磨いてくれています。こうやって、真似が広がっていくのを目の当たりにすると、自分の言動が、この人たちにとても大きな影響を与えていることに、改めて気がついて、愕然と……。いやはや、真似しないでほしいことがたくさんあるなぁ。
でも、こういうお手伝いは大歓迎。お掃除をしている様子を見て、大人さながらで掃除機をかけてくれています。もちろん、上手にできませんが、自分のやりたいと思うことをやってみて、「えー、掃除機できるの? 助かるわー」と褒められています。
真似をして、怒られることもあるかもしれませんが、真似をして褒められるのは、とても大切な経験。真似をすると人が喜ぶ。真似をして人から感謝される。そういう経験を繰り返していきながら、人に喜ばれることがどんどんできるようになっていく。子育ては、そういうコツコツした積み重ねでできているのかもしれません。
家族みんなで、お互いの良いところを真似しあいながら、育ち合う仲間でいたいものです。悪いところは、そっと目をつぶって真似しないように気をつけようっと。
PROFILE
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北海道むかわ町出身。札幌育ち。えほんとおもちゃの専門店「ろばのこ」代表、庭ビルの運営に携わり、子どもと大人のための「庭しんぶん」編集長。女の子と男の子の二児の父、まもなく3人目が家族に仲間入りする予定。
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