浅間山の裾野に家族5人で暮らすピラティスインストラクター前村詩織さん。いわゆる高齢出産となった3人目の妊娠期が、じつはいちばん快適だったという理由とは?
20代で2人の子どもを出産し、その後しばらくは仕事に集中していました。3人目を授かったのは30代半ばを過ぎたころ。一般的に高齢出産といわれる年齢です。3人目の次女は長女と7才、長男とは10才も違うので、妊娠中も新生児のころも、身に起こることすべてがひさしぶり。おなかの張りも胎動もあらためて新鮮でしたし、陣痛に至っては5分間隔くらいになるまで「ん?陣痛ってこんな感じだったっけ?これって陣痛…?」と確信がもてないというおとぼけぶりでした。
でも、産前産後の身体の快適さという点では、3回目となる今回の妊娠が群を抜いていました。年齢を重ねていたのにもかかわらず、です。妊娠中は、前回・前々回にあった腰痛や恥骨周辺の痛みに悩まされることもありませんでしたし、妊娠後期になっても深い睡眠がとれ、産後の戻りもこれまでで一番早く、産後3ヵ月には体型もほぼ元通りでした。

1人目、2人目の妊娠中にしていなくて、3人目のときにはしていたこと、それがピラティスです。妊娠前から出産前日まで(なんなら陣痛中も!)ほぼ毎日行っていました。
妊娠すると靭帯を緩める作用をもつホルモンが分泌されます。赤ちゃんが産道を通りやすいよう骨盤を緩めるためなのですが、支える筋力が不十分だと歪みの一因にもなりかねません。ピラティスでは呼吸に意識を向け、呼吸とともにおなかのいちばん深層にある「腹横筋」や子宮を含めた内臓を下から支える「骨盤底筋」、重力に逆らって背骨を伸ばす「多裂筋」、そして呼吸には欠かせない「横隔膜」を使います。それらのインナーマッスルたちが働くと、まるで天然のコルセットを身につけたかのように、腰や骨盤を守ってくれるのです。
おなかが大きくなるにつれ、腹圧をかけることはできなくなりますが、吸い上げるように体幹部のインナーマッスルを使う習慣があることで、臨月でもおなかはそれほど飛び出さず、母体がとても楽でした。
この経験をもとに、今は妊婦さんを対象にしたマタニティピラティスを積極的に教えています。マットの上で寝たまま、座ったまま無理なくできるピラティスは、妊娠中のエクササイズには最適。日本産科婦人科学会の推奨運動リストにもピラティスは入っているほどです。
子宮が大きくなることで心肺が圧迫されて呼吸が浅くなりがちな妊娠期、深く呼吸をする習慣をつけておくと、分娩時にも役立ちます。妊娠期に伴走した生徒さんからは、ほぼ全員「いきむのが上手って助産師さんに褒められました!」と報告してくれます。
何より、少しずつ大きくなるおなかを愛で、その中にいる赤ちゃんと一体感を持ちながら身体を動かしていく時間はとてもスペシャルなもの。その幸福感をぜひ妊娠中に味わってほしい、そして自信をもってポジティブな気持ちでお産に臨んで欲しいなあと、祈るような気持ちでレッスンしています。


PROFILE
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ピラティスインストラクター。日本で十数名しか保有していないオーストラリアのピラティス国家資格を取得し、ASICS Sports Complex TOKYO BAYなどでクラスを受け持つ。2020年長野に拠点を移し、フリーのインストラクターとして働きながら一男二女の子育て中。
https://www.instagram.com/shiorilates/
(制作 * エチカ)