子育ての日々とは、いったいどんなことが印象に残っていくのでしょう。布作家のハヤシチエさんの「娘が初めて大笑いした日」のこと。
娘は、とにかく泣き虫赤ちゃんでした。おなかから出て来るや否や聞いた、甲高い大きな産声を「なんて可愛いんだろう!こんな可愛い声を聞いたことない!」と感嘆したのも束の間。
生まれてから1年ほどは「おっぱいを飲む、寝る」以外の時間はとにかく大きな声で泣いていました。(3才差の息子はそうではなかったので、個人差はかなりあると思います)。
里帰り中に一緒にいてくれた母も「3人育てたけど、赤ちゃんってこんなに泣くものだったっけ」と首をかしげるほど。
生後10ヵ月ほどは目を開け、泣かない状態で起きていることがほとんどありませんでした。とりわけはじめの3ヵ月は授乳間隔も短く、オムツを替えても授乳しても抱っこしても泣いて、泣いて、泣かれる怒涛の日々。
もちろん娘は可愛くて仕方がない。でも、睡眠もろくに取れない私は言葉通りいっぱいいっぱい。髪を振り乱し、娘が寝た隙にインターネットで「赤ちゃん 泣き止まない」「赤ちゃん 泣き止む方法」と言ったワードを検索しては試行錯誤する日々でした。
生後4ヵ月を過ぎたころ。夫もお休みで一緒にくつろいでいたところ、夕方いつものようにぐずぐずし始めた娘。
いつもならすぐに抱っこ、授乳をするところで、ふと基本に立ち返り(?)、私は「いないいないばあ」をしてみたのです。
私「いないいないばあ!」
娘、真顔。
ダメか。ん?でも泣いてない。表情を変えずに私を見つめている。もう一度!
私「いないいないばあっ(ちょっと変顔)」
娘「へっ」
それは娘の、何かに反応してこらえきれずこぼれるような、吹き出すような小さな笑い声。
お!これはいける?
私は思いっきりオーバーに変顔付きの「いないいないばあ」を繰り返してみました。
私「いないいなーーーい、バァ!」
娘「へーっ、へっへっ、キャッキャッキャッ、キャッ!」
思わず顔を見合わせる私と夫。
それは娘が私たち夫婦に初めて見せてくれたいわゆる「大笑い」でした。新生児のころに見せる生理的な微笑とも、生後2ヵ月ごろから見せてくれるようになった、目が合うと微笑むような穏やかな笑い方とも違う。小さな体からいっぱいに繰り出される大笑い!
私はその夜、娘の笑顔が可愛くて愛おしくて娘が飽きて笑わなくなるまで何度も何度も「いないいないばあ」を繰り返しました。
夫がその様子を動画に収めていてくれて、今でもたまに見ては微笑ましい気持ちになります。
なぜか私はこの、「娘が初めて大笑いした日」のことを「初めて歩いた日」や、「初めてお母さんと呼ばれた日」のことよりも鮮明に覚えているのです。
これからはこの子を「泣きやませよう」じゃなくてたくさん笑わせよう、笑顔にしよう。
そう思えた、新米育児のターニングポイント的な出来事だったからかもしれません。
PROFILE
ハヤシチエこのライターの記事一覧
布作家。インテリア会社を退職後、長女の出産をきっかけに洋裁にはまり、子ども服から小物まで様々なモノを縫うようになる。今は自宅で縫い物の仕事を行なっている。
(制作 * エチカ)