ママやパパにとって祖父母は子育てにおいて心強い存在であり、また祖父母も孫の誕生を楽しみにしているもの。しかし、実際に赤ちゃんが生まれて育児が始まってみると、育児方法や考え方の違いに互いに戸惑いが生じることがあるようです。そこで活躍するのが「祖父母手帳」。今回は、この「祖父母手帳」について、みき母乳相談室の榎本助産師に詳しく教えていただきました。
「祖父母手帳」って?
共働きの家族が増えた昨今、子育てには祖父母や地域のサポートが必要といえます。ですが、祖父母が子育てをしていた時代と現在では、環境や子育ての情報も変化し、さまざまなギャップが生じがち。
たとえば、祖父母たちの子育てでは、こんなことが常識とされていました。
「泣いたら抱っこをすると、抱きぐせがついてしまう」
「赤ちゃんが3ヵ月頃になったら離乳食を始める前に果汁を飲ませよう」
しかし、これらは今の子育てでは反対のことが言われています。昔の子育ての常識が、現在では通用しないことが多くなってきたのです。
このことを祖父母世代が理解していないと、親世代の子育ての考えややり方とギャップが生まれ、 せっかくサポートしようと思ってもすれ違いが生じることがあると思います。または、「昔と今でやり方が違うのは分かるけど、どう違うのか分からない」と、孫育てに不安を感じてしまうかもしれません。
そこでこれらを解決するために、多くの自治体が祖父母向けに孫育てのヒントを集めた手帳を発行しました。それが「祖父母手帳」です。なお、自治体によって名称は異なり、「孫育て手帳」「孫育てガイドブック」「グランパマ・ブック」などさまざま。
「どうやって祖父母に今の子育てを分かってもらおうかな」と悩んでいるママやパパは、ぜひこの祖父母手帳を渡して一緒に読んでみてはいかがでしょうか。
「祖父母手帳」にはどんなことが掲載されているの?
自治体によっても異なりますが、現在の子育て方法、子どもの発育のこと、ママやパパとの関係を円滑にする秘訣、孫との関わり方や心得、孫育ての相談先、などが書かれています。
例としてさいたま市の「祖父母手帳」に掲載されている内容をご紹介します。
・孫育てのいいところ(孫のメリット、祖父母のメリット)
・祖父母世代、親世代の上手な付き合い方(それぞれのうれしかったこと、気遣いがほしかったこと)
・子育ての新常識(昔の子育てと今の子育ての違い)
・防げる事故から孫を守ろう(起こりやすい事故について)
・孫といっしょに遊ぼう(読み聞かせや手遊びなど、遊び方を紹介)
・孫とお出かけスポット(さいたま市内の子育て支援施設、公園などを紹介)
・孫育てを支えるサービス(相談窓口の一覧をご紹介)
など
知っておきたい昔の子育てと今の子育て
昔と今の子育ての違いをお互いが知っておくと、理解が深まり、コミュニケーションがスムーズになるはずです。さいたま市の「祖父母手帳」で紹介している例を一部ご紹介します。
【抱っこ】
昔:抱きぐせがつくといっていた。
今:自己肯定感が育つなど抱っこは心の成長に大切。抱きぐせは気にしなくていい。
【卒乳】
昔:母子手帳に「1才までに断乳の完了」という記載があった。
今:自然とおっぱいから離れるまで授乳して問題ない。
【うつぶせ寝】
昔:頭の形がよくなるといわれていた。
今:乳幼児突然死症候群を防ぐために基本的にはあおむけで寝かせる。
【離乳食の進め方】
昔:離乳食の準備として3~4ヵ月から果汁をスプーンで与えていた。
今:離乳食開始時に果汁を与えることは推奨されていない。湯上りの水分も母乳、ミルクで十分。
【虫歯の予防】
昔:大人が噛み砕いた離乳食を子どもに与えたり、箸やスプーンを共有したりしていた。
今:むし歯菌は大人の口からうつるため、箸やスプーンは共有しない。大人もむし歯を治療することが大切。
こんな風に子育てのさまざまな場面において、昔と今では良しとされていることや習慣が違うのです。そのため、祖父母世代も今の子育てを理解しがたいこともあるかもしれません。そのようなときは祖父母手帳を活用しましょう。
そして、これからママ・パパになる方、現在子育てまっただ中のママ・パパたちも、祖父母世代がこのように子育てをしてきたことを理解しておくことが大切だと思います。
まとめ
「祖父母手帳」についてご紹介しました。ママやパパが昔の子育てを、祖父母世代が今の子育てを理解することで、子育てにおける意見の相違は少なくなり、信頼しあうきっかけになるのではないでしょうか。「これは任せるね」「これはやっておくね」とお互いに声をかけあえるとよいですね。
PROFILE
榎本美紀このライターの記事一覧
2001年に助産師免許取得後、杏林大学医学部付属病院・さいたま市立病院・順天堂大学練馬病院の勤務を経て、2013年に埼玉県さいたま市に訪問型の助産院「みき母乳相談室」を開業。病院勤務での経験を元に、地域の母乳育児を支援している。訪問時の相談は、母乳だけではなく離乳食や抱っこひも、スキンケア、寝かしつけなど多岐にわたる。また、おむつなし育児アドバイザーとして、トイレトレーニングなどの相談も受け付けている。自身も一児の母として子育てに奮闘中。
「みき母乳相談室」