浅間山の裾野に家族5人で暮らすピラティスインストラクター前村詩織さん。ぷるぷると震えながらつかまり立ちをする蕗ちゃん、何かに似ている…?
蕗ちゃんが産まれた春から季節はぐるっと巡り、冬がやってきました。赤ちゃんと過ごす時間の早さといったら!先週までは行けなかったようなところまでハイハイで遠征できるようになり、気がつくと玄関にいる蕗ちゃんを見つけてひやっとすることも。
ぷるぷると震えながらおすわりをしていたのも、もう懐かしい思い出です。9ヵ月になった今、おすわりはどっしりと安定し、果敢につかまり立ちとつたい歩きに挑戦しています。まだ足腰がふらつくので、気を抜くとバランスを崩してコテンと倒れてしまいますが、これもきっと今限定。すぐにしっかり一人で立てるようになっちゃうんだろうな、とさみしいような気持ちで蕗ちゃんの体を支えていると、既視感を覚えました。この感覚、どこかで味わったような…。
…あ!ヒヨコだ!
そう、蕗ちゃん、我が家で孵化したヒヨコたちにどこか似ているんです。長野に居を移し、広い庭ができたからにはニワトリを飼ってみたい!と思っていたら、茅野でニワトリと暮らしている友人が有精卵をプレゼントしてくれました。卵を温め始めてからちょうど21日目にヒヨコになります。孵化機に9個の卵をセットして、ドキドキしながらその日を待ちました。
さて、21日目の朝。卵の中からピヨピヨと鳴き声が聞こえてきました。ヒヨコが中から殻をつついています。
がんばれ、がんばれ。
お産を応援するような、祈るような気持ちで見守っていたら、3羽が殻を突き破り、ドサッと出てきました。羽毛がべっとりと濡れていて、生まれたての赤ちゃんのよう。1時間ほど休むと羽毛は乾き、ホワホワの黄色いヒヨコちゃんになりました。
ヒヨコたちは順調に大きくなり、段ボール箱の中で朝から夜までずっとピヨピヨ鳴いています。競い合うように餌をつついているかと思えば、夜になると3羽で寄り添って眠ります。孵化して1ヵ月も経つと、脚も小さな恐竜のように立派になり、人間の腰の高さほどのところからも飛び降りられるようになりました。
ホワホワの産毛も、つかまってプルプルと震えるところも、温かいところも、蕗ちゃんを彷彿とさせます。そして、蕗ちゃんもヒヨコたちが気になるようで、近くに置くと、じっと見つめて手を伸ばし、ぎゅっとつかもうとします。ヒヨコが動くとキャッキャと声をあげて喜びます。
そんな様子を見ていて小学生の長男がポツリ。「ねえママ、ヒヨコは生まれてすぐに歩き回るよねえ。人間の赤ちゃんはどうして何もできないんだろうね」。
人間の赤ちゃんは、24時間守られ、おっぱいやミルクを与えられ、自分の力で立って歩くようになるまでは一般的にはだいたい1年かかるといわれています。産まれたばかりの新生児は、それはそれは儚くて、ちゃんと呼吸をしているか、夜中に何度も確かめたものです。
進化論に基づくと、高度に発達した脳の大きさだとか、妊娠中に母体が必要なエネルギーだとか、いろいろな要因で人間は妊娠期間が10ヵ月になって、動物に比べるとあまり運動能力が高くない状態で赤ちゃんが産まれてくると本で読んだことがあります。それだけの理由ではありませんが、家族や友人、保育園、地域の方々、いろいろな人にかかわってもらって、みんなで協力してを育てていけたらいいな、そんな解釈があってもいいのじゃないかな、と、ヒヨコと蕗ちゃんを見ながら思いました。
PROFILE
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ピラティスインストラクター。日本で十数名しか保有していないオーストラリアのピラティス国家資格を取得し、ASICS Sports Complex TOKYO BAYなどでクラスを受け持つ。2020年長野に拠点を移し、フリーのインストラクターとして働きながら一男二女の子育て中。
https://www.instagram.com/shiorilates/
(制作 * エチカ)