写真家・山本彩乃さんが綴る、ゆったり子育てライフ。今回は「妊娠中の思い出」です。
東京から電車で1時間。家から海までは2km。時間の流れがゆったりしている、神奈川県平塚市に、結婚を機に引っ越してきて1年半ほど経った頃、赤ちゃんを授かりました。
念願の赤ちゃん。マタニティライフの始まりは、思っていたものと違っていました。5月の半ば頃、突如襲ってきた、船酔いのような気持ち悪さ。こ、これが……つわりというものか……!
朝目が覚めてから夜寝るまで、強弱はありつつも、常に気持ち悪い。でも、赤ちゃんがおなかで育っていてくれているってことだから……うれしいことなんだ。そう言い聞かせても、気持ち悪いものは気持ち悪い。
この頃の私は、毎日何が食べられそうか、試す日々。匂いがダメで、温かいものが食べられず、冷凍ご飯をレンジでチンしても、それを冷まして食べるという矛盾。
食べつわりだけでなく、眠りつわりもあったので、いくらでも寝られてしまうのが不思議で、赤ちゃんがゆっくりしていてね、と司令を出しているんだな、と思うことにしていました。
様子を見がてら、定期的に野菜を持ってきてくれる義両親。お義母さんが育てる無農薬野菜を使って、週末に夫が、私のために常備菜を作ってくれていました。
家族の優しさに救われ、栄養をなんとか摂れていた感じです。エコーで見られる、赤ちゃんの成長が、何よりの楽しみでした。
そんなつわりが、突然無くなったのは、2ヵ月半後。果物、生野菜、冷やご飯のみを食べていたので、気づけば、体重が5kg減っていました。
そこからは、冬眠していた動物が春に目覚めるかのごとく、普通に食べられること、気持ち悪さがないことが嬉しくて、よく外に出るようになりました。
フォトグラファーのお仕事は、体力的にやれそうなものはやらせてもらいつつ、冬眠中になまった身体を動かすべく、その他の日は海までお散歩したり、ご近所さんにふらっと会いに行ったり。
海に行く途中にある、88才の大村おばあちゃんのパン屋さん「松風商会」。ここでパンを買って、おばあちゃんと母親トークをしてから、海へ行って波の音を聴きながら食べるのが好きでした。
日替わりで作られるパンはどれもおいしくて、よく買うのは、全粒粉食パン、玄米蒸しあんぱん、マロンパイ、クランベリーパンなど。妊娠の報告をしたら、この日はお手製のいちじくジャムをおまけでつけてくれました。
パン屋さんの近くにあるのが、引っ越した当初から通っている「CafeLittleParty」。店主の泰子さんの世界観が好きで、よく通っています。ここに来ると旅をしている気持ちになれるから不思議。妊娠のことも、とっても喜んでくれました。
我が家から数軒隣に住む、91才のおばあちゃんは、引っ越した頃から仲良くさせてもらっていて、妊娠中から生まれた今でも、気にかけてくれ、会うたびにお裾分けをくれます。庭になったゴーヤ、果物、お菓子。手料理の煮物は味付けがちょうど良くて、とてもおいしい。
家の近所で見つけた、同い年の雑貨屋さん「join」。センスの良い雑貨に出会え、同い年トークにも花が咲き長居してしまう。
いろんな年代のご近所さんが近くにいて、雑談したり、相談したり。そんなたわいもない時間が、程よい気分転換になっていました。
夫は平日、仕事で帰りが遅いので、ご近所さんの存在は何かあったときにも頼れる人がいる、と思えて私にとって安心できたのです。
緩やかな繋がりは、子どもが生まれてきた今も、育って行くこれからも、ずっとずっと大切なものです。
PROFILE
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写真家。広告、雑誌などで活動。2017年12月に長男、2019年6月に長女を出産。あらゆるもののもつ、輝きを写したい、という想いで日々シャッターを切っている。
https://www.yamamoto-ayano.com
(制作 * エチカ)