先輩パパとママの毎日コラムvol.23

なんとなくおかあさん「十人十色のおっぱい卒業、わたしの場合。」

2016/6/22
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2人の子どものママでもあるライター・小宮山さくらさんによる等身大の子育てコラム。

首が据わった、寝返りを打った、おすわりができた、ハイハイを始めた、離乳食を食べた、よちよち歩き出した……。赤ちゃんとの暮らしには、いくつかの区切りがあります。そのなかでも特別大きな区切りのひとつであり、また、お母さんの悩みも絶えないものが、「おっぱい卒業」でないでしょうか。お母さんが時期を決めて臨むものを「断乳」、赤ちゃん側から自然と離れることを「卒乳」と言ったりしますが、それでいうとわたしの場合は「断乳」でした。まわりの経験者に話を聞くと、時期も経緯も赤ちゃんの反応もほんとうに人それぞれ。わたしの姉は子どもたちが3才になるまでおっぱいをあげていましたし、「大きな声では言えないけれど、小学生になったいまでもときどきあげているの……」という友人もいます。「1才になる前に、赤ちゃんのほうから急におっぱいを飲まなくなってしまった、あっけなくて寂しかった」という友人もいます。本当に、おっぱい卒業は十人十色。子育ての多様性に改めて感心させられます。

おでかけ

授乳。それはとても特別な思い出です。静かな部屋でふたりきりのときもあれば、デパートの授乳室のときもありました。ずぼらな性格が功を奏して、スリングの中でまわりに気づかれずに授乳するという技を早いうちから身につけていたわたし。決してお勧めはできませんが、歩きながらの授乳も朝飯前でした。カフェでランチをしながらあげたこともあるし、電車や新幹線の座席でこっそりあげたことも。「カジュアル授乳」とでも名付けたくなるくらい、いつでもどこでも授乳していました。そして、赤ちゃんにおっぱいをあげる時間は、自分にとって至福のひとときでした。出産を経て、身体はふたつに分かれてしまったけれど、おっぱいをあげていると、また我が子とひとつにつながったような、言葉にならない大切な何かをおっぱいを通しているような、とても不思議な感覚を覚えることがあったのです。

そんなある日、突然やってきたのがおっぱい卒業。長女が1才2ヵ月のとき、わたしは体調を崩し、強めの薬を飲まなくてはいけなくなってしまいました。「まだ授乳しているのですが……」と先生に言うと、「投薬中は授乳をやめる必要があります。お子さんの年齢的に、この機会におっぱいをやめるのもいいかもしれませんよ」とのこと。「おっぱい、卒業ですか!?」まだまだ先のことだと思い、全然考えてもいなかったので、大げさですが、わたしの頭は真っ白に。そうしてわたしは、おっぱい卒業に踏み切ることにしました。

突然のできごとのうえ、病気の身でフラフラでしたから、何の準備も計画もなく始まってしまった初めてのおっぱい卒業計画。昼間は保育園で離れていられたのですが、夜になるとおっぱいが欲しくて泣き叫ぶ娘。心のなかで「ごめんね、ごめんね」と思いながらも、心を鬼にしておっぱいを隠し続けました。断乳トライ中は胸を見せないように、服を着たまま赤ちゃんをお風呂に入れるお母さんも多いと聞きました。わたしは体調の問題もあったため、当時一緒に住んでいた母に娘のお風呂を任せました。

「ぱいぱい、ぱいぱい」と泣きっぱなしの娘を拒絶することは、今思い出しても胸がひりひりするくらい辛かった。薬を飲んでいなければくじけていたかもしれません。吸ってもらえないわたしの胸も張りすぎてじんじんと痛く、この痛みが娘の悲しそうな泣き声と一緒になって自分を責めます。張りすぎると乳腺炎になる心配があるため、娘の目を盗んでは、洗面台で搾乳をしました。娘がこんなにも飲みたがっているおっぱいを、洗面台に捨てるわたし。小さな娘を苦しめて、一体なにをしているんだろう……。体調が悪いのも相まって、ものすごく悲しくなってしまい、娘と一緒に泣いた5年前のあの夜のことを、昨日のように覚えています。

ところが、ふた晩目。何回かは「ぱいぱい」と言っていたものの、突然静かになり、ひとりでスヤスヤ眠りだした娘。わたしもこれには「え?なにがおこったの?」と唖然。

そして3日目の晩。 娘は一度もおっぱいを欲しがりませんでした。スヤスヤとよく眠り、翌朝は親が驚くほどの食欲でご飯をたいらげました。その態度は、まるで、おっぱいなんて最初からこの世に存在していなかったかのようでした。 後からこのできごとを振り返ったとき、ああ、この子は、あきらめたんだ、泣いてもおっぱいはもらえないということをあのとき理解したんだ、と思い至りました。そうなんです、赤ちゃんの環境適応能力は、すさまじいのです。あきらめてくれたという安堵感と、どこか悲しく切ない思いがないまぜになり、なんともいえない気持ちになりました。

姉弟なかよし

そして3年後。 息子のおっぱい卒業は、1才4ヵ月ごろ。仕事復帰していて、胸が張って辛かったことや、乳腺炎を繰り返していたこと、息子がおっぱいの飲み過ぎでなかなか離乳食を食べてくれなかったこと、わたし自身が授乳の影響で痩せすぎてしまって体力的に辛かったことなどもあり、断乳に踏み切りました。

長女のときとは違い今度は計画的な断乳だったので、日にちを決めて、保育園の先生にも予め伝えておきました。そのころは両親と同居しておらず、手伝ってくれる人もいなかったので、5センチ四方のカットバンを買ってきて、両胸を隠すように貼り、マジックペンでアンパンマンの顔を書きました。

実はこれ、おっぱい卒業界(?)ではとても有名な断乳のテクニック。なんでも、赤ちゃんが「おっぱいが顔になった!」と思うことで、もうおっぱいがない、という事実を納得してスムーズに受け入れてくれるのだそうです。ビジュアル的にはものすごく面白いことになりますが、本人はいたって真面目です。

いざ、息子にアンパンマンをみせてみると、目をパチクリ。おっぱいを吸おうと口をちかづけますが、おっぱいがあるはずのところに顔があることを確認すると、「うーん?」という顔をして、吸うのをやめてしまいます。雑誌やネットを見て半信半疑で試したものの、こんなに効果があるなんて、びっくり!それからわたしは3日間、胸にアンパンマンのある女、として生きるのでした……。

さて、息子の場合も、ひと晩目はおっぱいが欲しくて泣きっぱなし。服をめくるたび、本来おっぱいがあるはずの場所に現れるアンパンマンの絵にもイライラしているようでした。やっぱり2度目も、最初の晩がいちばん辛かった。泣き続ける息子を抱きながら、早く時間が経ちますようにと祈るように朝まであやし続けていたことを思い出します。

さて、予想通り、2日目は泣く回数がぐっと減り、3日目には、もうニコニコ、スヤスヤ。2度目とはいえ、驚くほどの環境適応能力!かくして、長女と同じ手順を経て、息子も無事におっぱいを卒業することができたのでした。(もちろん、断乳に際しての赤ちゃんの対応も十人十色。もっとスムーズに行く子もいれば、難しい子もいると思いますので、あくまでひとつの参考としてご覧下さいね。)

おっぱいを卒業することで、いいことはたくさんありました。わたしは体力が復活し、悩まされていた抜け毛もおさまりました。息子はみちがえるようにたくさんご飯を食べてくれるようになり、朝までぐっすり眠ってくれるようになりました。そして不思議なことに、ひとつ前に進んだことで、なんだか我が子の表情に自信がみなぎってきたように思いました。

ただ、やっぱり、とてもとても切ないのも紛れもない事実。2度目の断乳を終えたときは、もう我が子におっぱいをあげることは二度とないのだなあと思うと、大好きだった授乳の時間を思い出し、ひとりで静かに泣いたのでした。

赤ちゃんとの暮らしは、「別れ」の連続です。首が据わると、生まれたてだった新生児の我が子とはお別れ。歩き始めると、ハイハイのころの我が子とはお別れ。おっぱいを卒業すると、もう、顔を真っ赤にしておっぱいを必死で飲んでいたあの子には二度と会えないのです。成長とは区切りの積み重ねなのだな、と改めて思います。もちろんそれは喜ばしいことなのですが、未来へと向かってぐんぐん進んで行く我が子のその後ろには、二度と戻れない、宝物のような時間がたくさん埋まっているのです。

食卓にて

授乳。あの特別なひとときの記憶は、今でもかけがえのない宝物です。我が子と特別な絆でつながっていた、あの幸せな時間。我が子の顔を見ると、胸のなかでおっぱいがふわーっと溜まって行く、なんとも不思議なあの感覚。赤ちゃんの顔に顔を近づけたときのおっぱいの甘いにおい、染みだらけになってしまったお気に入りのTシャツ、何度も掴まれてよれよれになってしまったクルーネックの衿ぐり、ぐっしょりと重みを含んだ母乳パッド、左右で大きさの違ってしまった、へんてこな自分のおっぱい。

ひとつずつ書き出すと笑ってしまうようなささやかなことばかりですが、わたしにとってはおばあちゃんになっても覚えていたい、大切な大切な記憶なのです。

小宮山さくら

PROFILE

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ライター。クリエイターへの取材やインタビューを中心に、『カメラ日和』『tocotoco』(第一プログレス)などの雑誌、書籍、広告などで活動。参加書籍に『無名の頃』(パイインターナショナル)、『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)、『エジプト塩の本』(美術出版社)、『猪熊弦一郎のおもちゃ箱』(小学館)など。目下、2児の子育て中。

(制作 * エチカ)

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