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管理栄養士・上田玲子先生にお聞きした わが子に「手づかみ食べ」をさせたい5つの理由

2020/9/8
管理栄養士・上田玲子先生にお聞きした わが子に「手... 管理栄養士・上田玲子先生にお聞きした わが子に「手...

離乳食が進むと、赤ちゃんが食べ物に手を伸ばし、自分の手で握って口に運ぶ「手づかみ食べ」が見られるようになります。こぼしたり汚したりと、ママやパパにとってはお世話が増えて大変ですが、実は赤ちゃんにとって手づかみ食べは、発達の大切なプロセスなんです。そこで、管理栄養士の上田玲子先生に、なぜ手づかみ食べが重要なのか教えていただきました。手づかみ食べのコツや手づかみ食べ向けのレシピも紹介しているので、参考にしてくださいね!

ーー早速ですが、手づかみ食べは、赤ちゃんにとってどのような意味があるのでしょうか。また、なぜ重要なのでしょうか。

上田先生
赤ちゃんは生まれてからずっとおっぱいやミルクを飲み、いわば食べさせてもらっていたわけですが、それが自分の手で食べて生きていけるようになります。これは、心身の自立への第一歩であり、自分で食べたいという欲求が出てきた発達の証です。

2つ目に、食べ物をつかんで食べるという動作は、目と手と口を協調させて動かすため、手指機能の発達を促します。積木を持ったり、砂場で砂をすくったりといったこととあわせて、自分の手でさまざまな動きをすることが、この時期の赤ちゃんにはとても大切なんですね。

3つ目に、手で直接触れることで、食べ物の熱さややわらかさ、触感、においを感じることができます。これが五感の発達を促します。

4つ目に、自分でかじり取って、つぶして、舌の上でまとめてゴックンするという一連の流れの中で、飲み込み可能な一口量を学ぶのです。

最後に、自分で食べ方をコントロールできるようになるための学習期間であるという点です。お母さんやお父さんにスプーンで与えられているときは、どうしても与えている方のペースになるので、急いで飲み込んで噛む習慣がつかない場合もあります。手づかみ食べであれば噛んでまとめて飲み込む時間を自分でコントロールできますから、自分のペースを学習することができるんです。

離乳食のステップで手づかみ食べが大切な理由
1 心身の自立への第一歩となる
2 手指機能の発達を促す
3 五感の発達を促す
4 一口量を学ぶことができる
5 自分のペースを学習することができる

ーー赤ちゃんにとって、手づかみ食べはとても大切なんですね。最近、手づかみ食べが注目されている理由がわかりました。手づかみ食べのスタートに適した時期というのはあるのでしょうか。

上田先生
離乳食が始まってすぐ、親御さんがスプーンであげようとすると、スプーンをにぎろうとする動作が出てきますよね。まずは持たせてあげてください。まだつかめないので、持ってすぐにパッと離して落としますけれど、それも学習です。

親御さんがあげるものとは別に、赤ちゃん用のスプーンを持たせてあげることが手づかみ食べへの第一歩となります。

その後、親御さんが持っているおかゆのお碗に手を出してきたり、口に入っているものを手で出してつぶしたりすることもあるでしょう。それも赤ちゃんにとっては、大切な学習なんです。

赤ちゃん用のスプーンを持たせてあげる

ーー近頃は積極的に手づかみ食べをさせたいというママやパパも増えていますが、進める上で大切なことや、手づかみ食べをサポートするコツを教えてください。

上田先生
まず、お子さんのことをよく見ることが一番大事かなと思います。9ヵ月頃になると、“食べよう”という思いが強くなり、手も出てきますが、それは邪魔しているのではなくて、食べたいサインだと理解すること。また、食べ物を手でつぶしたがれば、それはつぶすことで学習しているんだと受け入れること。そんなふうに、大切な成長のプロセスだと肯定的に受け入れることが大切ですね。

肯定的に受け入れることができたら、あとはお子さんの“自分で食べる意欲”を尊重し、汚しても投げてもOKな環境を与えてあげることがサポートになります。

環境については、エプロンのほかにも床にバスタオルやシートを敷いたり、投げても安全な食器・食具を用意してあげたり……そう伝えてはいますけれど、これはできる範囲でいいと思います。

ーー手づかみ食べは毎食させた方がいいのでしょうか。それとも「1日のうちのこの時間」などと時間を決めて行うのが良いのでしょうか。

上田先生
手づかみ食べの頻度に決まりないので、親御さんのペースでまったく問題ありません。時間に余裕があったり、親御さんが受け入れられるタイミングで行うのがいいと思います。

急いでいる日は、赤ちゃんにはスプーンをにぎらせるだけにしたり、持ちやすい形のものを手づかみ食べさせたりしながらも、横から親御さんがスプーンでおかずを口に運んであげてもいいでしょう。
ただ、赤ちゃんは食事に20分程度しか集中できないので、20分のうちの10分は親御さんがあげるなど、時間をひとつの目安にするのはいいかもしれませんね。

パンケーキのような持ちやすい形のものを手づかみ食べ

ーー手づかみ食べに適した食材や食べ物の形状についてお聞かせください。

上田先生
基本的にはいろいろなものを手づかみさせてもらいたいですね。
例えばうどんのように水分を含んでいるものや、おかゆのようにドロドロしたものをつかませることも大事なのですが、毎日やるのは大変ですから、おやきのようにつかみやすい形状のものを選ぶのもひとつです。このとき、お口の口角から口角まですっぽり入る大きさがあり、かじり取れる練習ができるものを選ぶのがポイントです。

赤ちゃんのお口の大きさを考えると、どうしても小さくて丸くて……と、食べやすいものを与えがちですが、手づかみ食べで重要な一口量の学習をするためにも、ある程度の大きさは必要なんです。

赤ちゃんせんべいならばサイズが手頃で、口に入れれば溶けるためつまらせる心配も少ないので、初期の練習にオススメです。そのうち、口に入れても溶けないおやきやミニハンバーグ、ロールパンの輪切りトースト(食パンより軽く、つまらせにくい)などで、噛む練習まで持っていけたらいいと思います。

ーー続いて、よく聞く手づかみ食べの悩みについて、上田先生にお答えいただきました。

Q.手づかみ食べをさせたいのに口に入れずに手でつぶして遊んでしまいます。
A.「お子さんによっては、それを口に入れるものだとわからない場合もあるので、手についているものをなめさせてあげるなど、誘導してみてください。そのうちに口に運ぶということを理解するようになります。

それでも嫌がったら、“今は遊びたいんだな”と思ってやめてしまって結構です。“手づかみ食べをさせなきゃ!”と意気込んで、かえってつらい思いをしている親御さんもいるかもしれませんが、そこまでして手づかみ食べをさせなくても大丈夫!思いつめてしまったら、つぶしているだけでも赤ちゃんは学習しているということを思い出してくださいね」(上田先生)

Q.手づかみ食べをして少しすると、食べ物を投げたり汚したり……。片付けの大変さばかり目につき、イライラしてしまいます。
A.「親御さんはイライラすることもあると思いますが、無理しなくていいですよ。『もう終わりね』と片付けてしまう日があっても問題ありません。

食べ物をポイポイ投げて、その後を追いかけていくお子さんもいるんですね。投げて落っこちた後を見たいようです。つぶれているのを見て、口に入れるお子さんもいます。食べにくかったものを自らの手で食べやすくしたわけですから、ある意味学習です。

そんなときは、ほめてあげていいと思います。ただ、ものを投げるということも子どもにとっては学習ですが、食べ物とおもちゃは違うということは少しずつわかってほしいので、『これは食べ物だよ。お口に入れるんだよ』という声掛けはしましょう」(上田先生)

Q.手づかみ食べをさせてみましたが、食べ物を口に運ぶどころか触ろうともしません。
A.「食べ物に手を伸ばそうともしないお子さんは結構います。
その場合には、本人の手を食べ物に持っていってあげるなど、食べることを促すように接してみてください。先ほどお話しした赤ちゃんせんべいを手に取らせてみるなど、簡単なところから始めてましょう」(上田先生)

Q.手で食べさせることが衛生的に心配です。
A.「食事の前にしっかり手洗いし、テーブルや椅子、食器類を清潔にしてあげれば基本的に問題ありません。

また、かえって手づかみ食べによってさまざまな雑菌が口に入ってきた方が、腸内細菌の定着率は高くなるのです。

気をつけなくてはいけないのは、親御さんが嘔吐下痢をしているなど、何らかの感染症に罹った場合。
手づかみ食べはいったん中断し、食事の支度や赤ちゃんに食事を与えることも、他の家族に代わってもらいましょう」(上田先生)

食事の前にしっかり手洗いし、テーブルや椅子、食器類を清潔に

上田先生オススメ!
手づかみ食べ向けレシピ

ここでは、栄養士さんたちの間で「保育園で出してみたら子どもたちによろこばれた!」「遊ばずに口に入れる率が高い!」と評判のレシピを上田先生にお聞きしました。

じゃがいものお焼き

「バターの風味と青のりの香ばしさがお子さんたちに好まれるようで、人気の高いメニューです。栄養士としては、じゃがいももにんじんも入っているのでビタミンが摂れていいという思いもありますが、手づかみ食べで大切なのは、何よりお子さんが好きな味がどうかということ。このお焼きなら、楽しみながら練習してくれます」(上田先生)

じゃがいものお焼き

RECIPE

じゃがいものお焼き

材料(4枚分)

茹でてすりつぶしたじゃがいも…50g
にんじんのすりおろし…小さじ1
片栗粉…小さじ1と1/2
牛乳…小さじ2
青のり…小さじ1/3
バター…小さじ1


作り方

  • 1.バターを除いた材料を混ぜあわせ、4等分してせんべい状にする。
  • 2.バターを引いたフライパンで両面を焼く。

トマトライス

「こちらは、野菜嫌いのお子さんに野菜を食べさせたいという親御さんの悩みを聞いて作ったレシピだそうです。野菜は刻むと食べやすくなりますよね。粉チーズでまろやかさを出せば、さらに食べやすさがアップし、食が進みます。きざみトマトは、トマトピューレや幼児用トマトケチャップで代用してもOKです」

トマトライス

RECIPE

トマトライス

材料(5枚分)

やわらかいご飯…1/2合
きざんだトマト…大さじ1
にんじんみじん切り…大さじ1.5
ピーマンみじん切り…大さじ1
粉チーズ…適量
薄力粉….小さじ1


作り方

  • 1.材料を混ぜてせんべい状にする。
  • 2.1をフライパンに並べ、両面加熱する。

ーー最後に、これから手づかみ食べを始めようと思っているママやパパへ向けて、メッセージをお願いします!

上田先生
“これまではおっぱいやミルクしか飲めなかったのに、こんなにいろいろなことをできるようになったんだ!”と、お子さんの成長をよろこびながら手づかみ食べをさせてあげてください。

そして、お子さんはいたずらをしたり困らせようとしているのではなく、すべては発達のプロセスであり、それを伸ばしてあげようという大らかな気持ちで向き合っていただきたいと思います。

また、親御さんご自身が許容できる範囲で受け入れることも大切です。
「私はこの辺までは許せるけれど、この辺からはイヤ」など、ご家庭によって「うちはこういうしつけ」というのがあって構いません。ぜひご家庭のペースで、楽しく取り組んでみてくださいね。

食べることは、体の成長だけでなく、心のくつろぎやストレス発散など、精神機能にも影響を及ぼします。
「与えてもらわないと食べることのできない赤ちゃんにとって、食べることは命が保証され、安心して生きていいんだという肯定的な行為そのもの。だから食で満たされると、心の充足につながるのです」とは、上田先生の言葉です。

だからこそ、赤ちゃんにとっても、親御さんにとっても、食べることは楽しいことであってほしいですね。離乳食や手づかみ食べを通して、食の楽しさとよろこびが広がりますように!

上田玲子さんプロフィール画像 上田玲子
管理栄養士。栄養学博士。産業カウンセラー。東洋英和女学院大学 非常勤講師。小児栄養学、母性栄養学、栄養教育学、公衆栄養学などさまざまな栄養に関する学問を学び、栄養コーチングの手法を開発。食を通して子どもの幸せに関わりたいと活動している。

(撮影/矢部ひとみ フード&スタイリング/清水季代 編集/羽田朋美(Neem Tree))

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