先輩パパとママの毎日コラムvol.391

1+1+1+1=∞の日々 「不器用母のソーイング奮闘記」

2021/2/2
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お母さんになると、子どものアイテムを作る機会が増えますよね。編集者・岸野恵加さんのお裁縫の話です。

小さい頃から手先がとても不器用で、ソーイングでは玉留めは何回やっても浮いてしまうし、ミシンに向かえばどうしても縫い目を真っ直ぐにすることができない。編み物講師の資格を持ち、縫い物もお茶の子さいさいな母からどうして私が生まれたのか?不思議に思うことも少なくありませんでした。でも縫うことは好きで、子どもが産まれたら手作りの洋服や小物を作ってあげたいなあ…という思いを、胸にずっと抱いたりしていたのです。

実際に子どもが産まれてどうだったかといえば、産休に入る直前まで仕事に明け暮れ、母親学級などにも一度も出られなかった私は、産まれてからも慣れない育児で慌ただしい毎日。子ども服や小物を手作りするなんて夢のまた夢のような日々を送っていました。

息子が保育園に入園するときも、「よし頑張るぞ!」と通園バッグやあずま袋を縫ったりしたのですが、途中から音を上げて母にアウトソーシング。その間もSNSでは、産まれくる赤ちゃんのためにスタイを手作りした、我が子の誕生日に世界にひとつだけのドレスを縫った、といった友人の投稿がとてもまぶしく映っていました。そういうことができない自分は母親として余裕がなさすぎるのではないか、子どものために何もしてあげられていない、と罪悪感や情けなさのような感覚が離れなかったです(今思うと、そんなふうに感じる必要は全くもってなく、「よい母プレッシャー」にとらわれすぎだよ、と感じてしまうのですが)。

そんな私が一念発起したのは、息子が3才のとき。「甚平は直線縫いしかないから簡単にできる」という情報を耳にして、「それなら私にもできるかもしれない!」と、気合いを入れて布と型紙を買いに行ったのでした。選んだのは、白地に小さな水玉のシンプルなリップル生地。甚平の型紙は、確かに直線縫いばかりで理解はしやすかったのですが、細かいパーツが多いためになかなか苦戦。数日間、子どもを寝かしつけてから少しずつ作業を進めていきました。最後の方は「もう見えないところはどうなっていてもいいや、着られれば大丈夫」と半ばヤケになり、縫い代の幅が不均等になっていたり(笑)。それでも完成させたときの達成感は、それまでに感じたことのないものでした。

手作りの浴衣を着た兄妹

その夏は夫の両親の地元・徳島に帰省する予定があったので、阿波踊りに遊びに行ったときに甚平を着てもらおうと思っていました。ところがです。イヤイヤ期まっさかりの息子、着用を断固拒否。義母も私の気持ちを汲んで、息子に語りかけてくれたりして本当にありがたかったのですが、どう説得しても泣いて騒いで脱ぎたがる。次第に「子どものためにと思って作ったけれど、単なる私の自己満足だったのだな」という感覚が大きくなってきてしまい、自分が否定されているような気持ちになって、情けないことに義母の前で涙を流してしまいました。その頃は激しいイヤイヤ期で、育児に滅入っていたところも大きかったのだと思います。

結局その年は一瞬着てくれただけで終了し、その甚平を見るだけで苦い気持ちになっていたので、翌年以降も強制するつもりはありませんでした。4才の夏、「また今年も着てくれないんだろうな」と諦めモードで息子に「これ、保育園のお祭りで着る?」と聞いてみたところ、あっけらかんと「着るー!」という返事が。私は喜ぶより「え?」と驚いてしまい、「そうは言っても『やっぱり着ない』とか言い出すんでしょ」と当日まで疑心暗鬼で期待していなかったのですが(笑)、息子はあっさり着てくれました。なんだか信じられなくて、「作ってよかったな」と1年越しに思えた瞬間でした。

そして数年経ち、娘が産まれて1才を迎える夏。以前縫った息子の甚平はサイズアウトしていたので、どこで買おうかなと物色していたら、息子から「お母さんが縫ったのがいい」とリクエストが。とっさに「あら…それは大変だなあ〜」と口に出したものの、内心、とてもとてもうれしかったのです。大張り切りで、子どもたちに色違いの甚平を縫いました。6才になった息子は、「作ってくれてありがとう」と、とても大事そうに、笑顔で着てくれました。3才のときに勝手に傷ついていた心が、スーッと成仏するような、報われるような感覚を覚えました。「子どものために」何かを作るのは、自分の思うような反応が返ってこなくて当然、半分自己満足なのだという気持ちで臨むくらいがちょうどいいのかもしれない…と、今では思います(笑)。

手作りの浴衣を着た兄妹2

その翌年には2才の娘にピンクの浴衣を。小さい子が着る浴衣姿は本当にかわいくて、たっくさん写真に収めました。それからもろくにソーイングはできていないし、相変わらず腕も上がらない私なのですが、去年出版社の編集さんにお声がけをいただいて、ドール服のソーイング本の編集をお手伝いさせていただくという機会がありました。それもなんだか、自分のコンプレックスを成仏させてくれたような感覚があって。こんなに不器用で、息子に甚平を着てもらえなくて泣いていた私が型紙の校正をしている…と思うとちょっと面白くなってきてしまうのですが(笑)、生きていると、過去の悲しみが思いがけないことで癒える瞬間があるんだな、と感じています。

岸野恵加(きしのけいか)

PROFILE

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2011年生まれ男児と2016年生まれ女児の母。編集者として働くかたわら、インタビューZINE『meine(マイネ)』を発行するなど活動の幅を広げている。ドラマーとしても活動(所属バンド『the mornings』は現在休止中)。
https://www.instagram.com/kemonokeika/
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