編集者の池田圭さんによるパパコラム。今回は奥さまの妊娠発覚とつわり期の食事について、池田さんの愛情がたっぷり込められたお料理の数々とともに紹介いただきます。
世の男性諸君は、どのような瞬間に妻が妊娠したことを実感するのでしょうか。
女性自身は、身体に小さな変化があったり、体調や体質が変わったりすることで徐々に妊娠の実感が湧いてくるのでしょう。しかし、まだおなかも大きくなっていない妊娠初期の奥さんを前に、我が家に子どもがやってくることを旦那さんが実感するのは、なかなか難しいものです。
私の場合、妻の妊娠を強く意識し始めたのは、妊娠3ヵ月ほど経ったある日のこと。急につわりが始まったのがきっかけでした。
うちの妻は、毎日とてもご飯を美味しくいただく(まあ、つまり人一倍よく食べる)タイプ。夜ご飯と昼ご飯の予定から逆算して、朝ご飯の献立を考えるほど、3度の飯より飯が好きな人です。
付き合い始めて10年、結婚から5年。ちょっとやそっとではビクともしない妻が、「つわりで食欲が湧かない」と言います。妻の食欲がないだなんて、インフルエンザにかかってひどく熱が出た時以来の一大事です。つまり、よほど体調が悪いのだろうなと想像できた途端、ようやく私も妊娠の大変さ、ことの重大さに気がついたわけです。
つわりで食べられない食材や期間は個人差が大きいそうですが、妻の場合、当初は油や香辛料をはじめ、味や香りの強いものが全てNG。ダシっぽいものならなんとか大丈夫と言うので、雑炊や麺類、汁物を中心に献立を考え始めました。そこから毎日、「これなら、食べられそうじゃない?」という食材を少しずつ料理に足してみて、日に日に使っても大丈夫な食材や調味料を増やしていったのです。
子どもを育てている今になって思うのは、この行程は離乳食をあげるようになってから、赤ちゃんが食べてもOKな食材を毎日増やしていくのによく似ています。この頃から、もう子どもを育てる練習が始まっていたのかもしれません。
当時、私が作った中でも特に妻が気に入ったメニューは、京都のソウルフード「けいらん」。トロみをつけたお出汁に溶き卵を流し入れ、おろし生姜をのせてさっぱりといただくうどんです。寒い時期だったこともありますが、身体が芯から温まる素朴な味が好評でした。今では、すっかり我が家の冬の定番メニューになっています。簡単にささっと作れるので、つわりに苦しむ妻には好評でした。
ちなみに、つわり開始から1ヵ月ちょっとで、妻の食欲はすっかり元通り。脂っこい揚げ物でも、スパイス料理でも、なんでも食べられるようになりました。以来、「2人分、私が頑張らねばならない」と謎の責任感を発揮し、これまで以上に栄養摂取に余念がありません。
PROFILE
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編集者、ライター。40才を越えてから第一子を授かり、仕事そっちのけで溺愛する毎日を送る。共著に『無人地帯の遊び方』(グラフィック社)。編集を手掛けた書籍に『焚き火の本』『焚き火料理の本』(すべて山と溪谷社)など多数。
(制作 * エチカ)