先輩パパとママの毎日コラムvol.371

まだまだ新米おかあさん「『ひねくれ妊婦』だったあのころ」

2020/11/9
まだまだ新米おかあさん「『ひねくれ妊婦』だったあの... まだまだ新米おかあさん「『ひねくれ妊婦』だったあの...

初めて妊娠したときの心の動きを、ライターの藤沢あかりさんが綴ってくれました。

はじめまして、ライターの藤沢あかりです。普段は、人の暮らしや気持ちに迫りながら取材・執筆をしています。離乳食もファッションも、おしゃれな暮らしとは程遠い生活ですが、悲喜こもごも、等身大のわたしの子育てをこちらで振り返る機会をいただきました。

わたしは8才の娘と、3才の息子のおかあさんです。これから出産を迎える人、まだほやほやの赤ちゃんを抱っこしている人たちにとって、8年先の自分なんて想像できないかもしれませんね。わたしもそうでした。

出産したあの日から8年、今も変わらず体の中から沸き起こるような「いとおしい」という気持ちに、日々支配されています。同時に「こんにゃろおおおおお」「もう無理いいいいいい」という日も山ほどありますが、泣きたくなるような大変さと、狂おしいほどのいとおしさが、四六時中交互にやってきて、無我夢中で走っていたら、おや8年経っていたのか。そんな感じです。

8年前の、よく晴れた夏の日のことを、今でも鮮明に覚えています。

はじめての出産は、逆子のため帝王切開。カンガルーケアを希望し、わずかな時間ながら、生まれたての娘を胸の上に乗せてもらいました。赤ちゃんのしっとりとしたみずみずしさと、やわらかいもっちり感、そしてなにより、あたたかい重み。確かに生きているその感触と自分の肌とが一体になったとき、あぁわたしがこの子を生んだのだと実感したのでした。

わたしの中の母親スイッチが入ったのは、まさにその瞬間。お恥ずかしながら、このときまで、これっぽっちも「親」になる自覚も、実感もなかったのです。

術後、病室で麻酔から目覚めたあと、ベッドに連れてきてもらい初乳をあげました。術後、病室で麻酔から目覚めたあと、ベッドに連れてきてもらい初乳をあげました。

妊娠に気づいたのは、年の瀬も近い冬のことでした。そろそろ赤ちゃんを、と考えてはいたものの、いざそのときがくると、「うれしい!」よりも、「どうしよう、嘘でしょ!?」のほうが先にたってしまいました。おかしなことに、ちっとも喜べない自分がいたのです。

「妊娠」にまつわるイメージといえば、おめでとう!という明るいものばかり。「ベビちゃん♪」とおなかをさすりながら話しかける、バラ色、ピンク色の世界です。小さな靴下を愛でたり、エコー写真を眺めたりしながら、指折り数えて待ちわびる、そんな思い込みがありました。

エコー写真

それなのに、わたしときたら。

元来、電車で赤ちゃんを見かけても、にこっと微笑むやさしさは皆無のタイプでしたので、ベビー服を見てもわくわくするどころか、まったくかわいいと思えない。エコー写真は先生にいくら説明されても深夜のテレビ画面にしか見えず、持ち帰って夫に見せるときには「たぶんこのへん……かもしれない……」というありさま。自分は、まだ親になるべきでなかったのか。もしや取り返しのつかないことをしてしまったのか……!?そんな思いで頭の中はいっぱいでした。

いわゆるマタニティブルーともちょっと違う気がするし、「希望して妊娠したのに後悔する」だなんて、どんなに検索しても同じような意見は見つかりません。そもそも妊娠は喜ばしいことで、奇跡のようなめぐりあわせだと頭の中ではわかっているのです。だからこそ、自分の正直な気持ちを誰にも話せませんでした。

当時のわたしは、「赤ちゃん用品はすぐ使えなくなるからおさがりでいい」という刷り込みもありました。衣類は、少し先に出産した義妹がどっさりおさがりをくれたこともあり、それ以上揃えることはしませんでした。唯一買ったのは哺乳びんくらい。出産直前に近くの赤ちゃん用品店で、「これでいっか」とセールワゴンの中から選んだのを覚えています(容量や乳首のサイズにあれこれ種類があると知るのは、買ったずいぶんあとでした)。

はじめての出産は2012年、娘はスカイツリーと同い年です。はじめての出産は2012年、娘はスカイツリーと同い年です。

あぁ、今思えば、もっと妊娠期間を楽しめばよかった。「仕事が忙しい」なんて理由をつけずに、率先して母親学級に行けばよかった。マタニティ姿の写真も、たくさん撮っておけばよかったし、スタイのひとつでも手作りすればよかった。おさがりばかりじゃなく、自分が心から気に入るようなデザインの洋服やベビーグッズを探せばよかった。

後悔はつきません。その後、息子を生んだときには、「3ヵ月しか着られないとしても、かわいいものを!」と、出産前にあれこれ買い揃えましたが、相手は男子なうえに、生まれてみれば人一倍どすこいなフェイス&ボディ。3ヵ月どころか1ヵ月でサイズアウトしたものも多々で、ほにゃほにゃした顔の娘に、女の子っぽい服をなぜもっと楽しまなかったんだ……という後悔は、今もひっそりくすぶっています(このパワーが孫に向かわないよう気をつけたいところです)。

このころの自分のことを、「ひねくれ妊婦」と呼んでいて、今でこそ笑うことができますが、すぐ受け入れられなかったのも仕方のないことかもしれません。

だって新しい人間がひとり、誕生するわけです。しかも自分の体の中に。なにもかもがはじめての経験なのですから、不安になるのは当然です。

赤ちゃんのあんよ

もし、今これを読みながら「わたしはまだ、おかあさんになる準備ができていないな」と感じている人がいたら、どうか安心してください。

迷ったり揺れたりしながら、ゆっくりゆっくり、おかあさんになっていけばいいんです。8年経った今のわたしでも、毎日がはじめてのことだらけで、新米気分は抜けません。「おかあさん」に、正解もゴールもないのだから、一緒にゆっくり、楽しみを見つけながら歩いていけたらいいですね。

藤沢あかり

PROFILE

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編集者、ライター。衣食住や子育てなど暮らしまわりを中心に執筆。主流・傍流にこだわらない視点で丁寧に取材し、分かりやすい言葉を使って伝えることがモットー。2012年、2017年、どちらも夏生まれの2児の母。
https://www.instagram.com/akari_kd/

(制作 * エチカ)

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