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ママやパパの体の負担をラクにする「疲れにくい」抱っこの姿勢とは?

2020/12/1
ママやパパの体の負担をラクにする「疲れにくい」抱っ... ママやパパの体の負担をラクにする「疲れにくい」抱っ...

わが子が生まれた瞬間から、数え切れないほどすることになる抱っこ。実は、ママやパパの体に大きな負荷がかかることをご存知でしょうか。コリや痛みがないからと、油断するのは禁物です。今回は、千葉大学 大学院工学研究科の教授であり、人間の本能的な動きに注目して製品や環境をデザインする、工学博士の下村義弘先生に肩や腰の負担を軽くする抱っこの仕方についてお聞きしました。

ーー出生時の男子の体重は平均3.00kg(平成22年度乳幼児身体発育調査/厚生労働省)。わずか3kgと思ってしまいますが、素手で抱っこする際のママやパパの体への負担は、どれくらいのものなのでしょうか。

下村先生
日常生活の中で、手で何かを持つ作業というのは、一時的なものが多いと思います。仮に買い物で2リットルのペットボトルを持つにしても、持ち手を変えたり、車や自転車のカゴに置くまでの短時間なので、簡単に疲労回復できます。ところが赤ちゃんを抱っこするシーンというのは、泣いているのをあやしたり、寝かしつけだったり、長時間に及ぶことが多いですよね。わかりやすい例があるのですが、「大きい前ならえ」も、号令の瞬間だけなら楽にできますが、10分くらい続けると震えが出てきて、15分ほど経つと手がだんだん下がり、維持できなくなります。20分経つと、もうほとんどの人は諦めてしまうと思います。つまり、同じ姿勢を維持し続けることは、人の体にとって大きな負担になるのです。赤ちゃんをずっと抱きかかえた状態でいるときの肩や腰への負担は、相当なものだと考えられます。

ーー痛みがなければ大丈夫だと思ってしまいがちですが、肩こりや腰痛の自覚症状がない方でも、大きな負担がかかっていることに変わりはないのでしょうか。

下村先生
はい、そうです。問題は、「自覚のないまま体に負担をかけていること」です。ただでさえ注意が赤ちゃんに向いているので、自分の体にかかる負担に気が付かないママ・パパも多いと思います。

ーーピジョンは「素手で抱っこした場合と、抱っこひも(caboo/カブー)を使って抱っこした場合の負担差」を測る検証(※)をしましたが、その結果をどのようにご覧になりましたか。

下村先生
検証の結果は、「素手よりも抱っこひもを使って抱っこをした方が、負担が少ない」というものでした。当たり前のようにも思えますが、これは「赤ちゃんをより高い位置で、密着した抱っこをキープできる」抱っこひもだから出た結果であると考えられます。

ーー「高い位置で密着した抱っこをする」ことが、肩や腰の負担を減らす理由について教えてください。

下村先生
赤ちゃんを抱っこしていると、赤ちゃんの分だけ重心が前に偏り、姿勢が前傾します。すると姿勢を正す(ママ・パパの重心を腰骨の真上に戻す)ために、背中を反らしますよね。

抱っこしていると、姿勢は前傾になる抱っこしていると、姿勢は前傾になる

この「姿勢を正そうとする際に働く筋肉」を脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)といいます。つまり脊柱起立筋の働きが大きいほど、体にかかる負荷が大きい状態であると言えます。では、脊柱起立筋の働きを小さく抑えるにはどうしたらいいか。

そのポイントが「抱っこする際の赤ちゃんの位置」です。

ママ・パパの姿勢が前傾になるのは赤ちゃんの重心が離れているためなので、ママ・パパの重心に近い位置で抱っこをするのが重要です。

赤ちゃんを高い位置で抱っこすると、少し背中を反らすだけで、腰骨の上に重心を持ってくることができます。つまり、姿勢の調整が少しですむため、体にかかる負荷が少なくなります。
また密着した抱っこは、下図のようにママ・パパの腰部から赤ちゃんまでの水平方向の距離を縮めます。水平距離が長くなるほどママ・パパが前傾姿勢になってしまうため、姿勢を正すために脊柱起立筋の負荷が大きくなります。自分の体に密着させれば赤ちゃんまでの距離が短くなりますから、赤ちゃんの体重が腰に及ぼす負荷を軽減できるというわけです。

ママ・パパの腰部から赤ちゃんまでの水平距離が小さいほど負荷も小さくなるママ・パパの腰部から赤ちゃんまでの水平距離が小さいほど負荷も小さくなる
高い位置で密着させる理想的な抱っこの姿勢高い位置で密着させる理想的な抱っこの姿勢

ーーおでかけ以外で赤ちゃんを抱っこするシーンといえば、寝かしつけです。1回あたり20分~30分間、素手抱っこで寝かしつけしているという方は少なくありません。完全に眠ったところでベッドに寝かせないと、背中スイッチが入って起きてしまうことがあるので、「寝たな」と思っても、しばらく抱っこしていて、それがつらいという声も聞きます。

下村先生
眠っている赤ちゃんは、いつもより重く感じるという方が多いと思うのですが、これは、赤ちゃんの体重に加え、脱力している赤ちゃんの頭や腕が垂れ下がるのを防止しながら抱っこをするため、かなりの負荷がかかっています。頭や首まで支えてくれる抱っこひもを使って姿勢が安定すれば、負担は少なくなると思います。

ーーなるほど!寝かしつけにも抱っこひもを使えばいいのですね。

下村先生
そうですね。素手と比べてかなりの負担減になります。寝かしつけた後は、抱っこひもごと赤ちゃんを寝かせることもあるんですか。

ーーはい、あります。ただ、ベッドに寝かした後に抱っこひもを抜く瞬間やバックルを外す音で起きてしまうなんて体験談も耳にします。

下村先生
素手抱っこからベッドに寝かせるときや抱っこひもを抜くとき、背中が蒸れているところに外気が入って一気に冷却されることで、起きてしまうのかもしれませんね。抱っこひもごと寝かせると背中の熱環境が変わらないので、背中スイッチが入りにくかったりしませんか。

ーーあると思います。わが家では家の中でもよく抱っこひもを使っていて、抱っこひもで寝かせることが多かったのですが、実際に抱っこひもを抜くときに起きてしまうことが多かったため、しばらくそのままにしておいたことがよくありました。背中の熱環境の変化!それが背中スイッチの原理(あくまで、ライターの個人的な感想です)なのかもしれませんね。

下村先生
そうかもしれませんね(笑)。むしろバックルを外す音がそんなに影響があるとは驚きでしたね。その音がならないようにするだけで、助かりますね。

ーーお話を伺って、抱っこする位置ひとつで肩や腰への負担が大きく変わることがわかりました。

下村先生
そうですね。「高い位置で密着した抱っこ」で体にかかる負担は大きく変わりますから、ぜひ実践してみてください。

※「素手で抱っこした場合と、抱っこひもを使って抱っこした場合の負担差」を測る検証について
抱っこをして「廊下を歩く」「階段を上る」「階段を下る」という動きをした際の、筋肉にかかる負担を脊柱起立筋(姿勢の要となる、脊柱を支える背中の筋肉群)の筋電図で、そして赤ちゃんの頭の揺れを加速度センサーで同時測定した検証。

下村義弘先生プロフィール画像 下村義弘
千葉大学 大学院工学研究院 教授・博士(工学)。
外科手術の医療用ハサミやロボットスーツなど、人間の生理的な機能に注目して製品や環境をデザインする。基礎研究は、人の無意識下の生理反応と覚醒度について。最近は「あそびの研究」も行う。

(撮影/矢部ひとみ 編集/羽田朋美(Neem Tree))

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