浅間山の裾野に家族5人で暮らすピラティスインストラクター前村詩織さん。働く母が一度は悩む、仕事と育児についてのお話です。
11年前に長男を、8年前に長女を産んだときは会社員でした。NPO勤務を経てフリーランスになり、東京から長野に移住して次女を産みました。
雇われか自営か、子どもは1人か2人か3人か、リモートワークか通勤かなど、10年間でいろいろな<仕事×育児>のパターンを経験しましたが、この2つをどうバランスさせるか、というのは、いつまで経っても私にとって大きなテーマであり続けています。
何しろ赤ちゃんを産んだ後のぼーっとした脳みそと、ひたすら赤ちゃんの世話をするだけで明け暮れる毎日から、まったく違うモードの自分を発動させないといけないわけです。<子どもの世話をしている自分>と<働いて対価を得る自分>のあいだに隔たりがあればあるほど、その両立に悩むことも多かった気がします。
どんな立場であっても、この日は絶対に仕事を休めない、自分がいないと回らない、という日に限って子どもが熱を出すことも。泣きながら抱きついてくる我が子の火照った両手を振り払い、母に預けて仕事に向かったこともありました。ふと胸元を見ると息子の涙でシャツが濡れていて、こんなときに側にいてあげられなくてごめん、と切なくなって、電車でこっそり涙を流しました。
小さなちいさな我が子を保育園に預けて仕事に行くとき、やりたかった仕事を出張ができないという理由で諦めなくてはいけないとき、逆に無理して海外出張に行って家族に大変な思いをさせたとき…。仕事をしたい自分と家族と一緒にいたい自分のあいだで引き裂かれるような思いもたくさん味わいました。
でも、それでも仕事を続けていくのに疑問をもったことは一度もありません。それは、<母である自分>以外の自分があるからこそ、<母である自分>も楽しめるから。
な〜んて、そんなことを堂々と言えるようになったのも、ここ数年の話です。赤ちゃんのお世話をしていると、自分の気持ちや都合は二の次で、赤ちゃんの要求に応えるのが最優先。その調子で何年も家族のケアをして過ごし、家でも仕事でも、求められること、期待されることに応えようとするあまり…ある日ふと気がつくのです。
「あれ、わたしって何がしたいんだっけ」
「わたし、何が好きなんだっけ」
今うれしいのか、怒っているのかもよく分からない。大げさでなく、アイデンティティの喪失!?というくらい、自分のことが自分で分からなくなってしまった時期がありました。自分がどう感じているのか、何がしたいのか、何に喜びを感じるのか。自分の声に耳を傾け、数年かけてひとつひとつ取り戻していき、今のわたしがあります。
そして、それと並行して、「子どもには子どもの人生があり、夫には夫の、私には私の人生がある」と、だんだんと、家族をチームのように捉えられるようになっていきました。朝フキちゃんと別れるときも、ママは仕事に行ってくるね、フキちゃんも保育園楽しんでね!あとでまた合流しよう!という具合で、悲壮感はありません。
家族のフェーズも、自分の仕事も、たくさんの変数によって成り立っていて、日々変わり続けます。その都度悩んだり迷ったりしながら、自分の声を聞いて、家族の声にも耳を傾けて、よいバランスを見つけていけたらいいなと思っています。
PROFILE
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ピラティスインストラクター。日本で十数名しか保有していないオーストラリアのピラティス国家資格を取得し、ASICS Sports Complex TOKYO BAYなどでクラスを受け持つ。2020年長野に拠点を移し、フリーのインストラクターとして働きながら一男二女の子育て中。
https://www.instagram.com/shiorilates/
(制作 * エチカ)