里帰り出産を選択した場合、産院・産婦人科はどうやって選ぶと良いの?【産婦人科医がアドバイス】
里帰り出産を選んだ妊婦さんにとって、産院・産婦人科選びはどうすればいいのか、いつまでにどんなことを調べておく必要があるのか、手続きしておいた方がいいのかなど、気になることはたくさんありますよね。そこで、里帰り出産を選択した場合の産院・産婦人科選びで知っておきたいこと、注意ポイントなどについて、産婦人科院長の天神先生に教えていただきました。
里帰り出産を選択した場合の産院・産婦人科の選び方のポイント
里帰り出産を希望する場合は、転院先での分娩予約が必要です。妊娠が判明し、母子手帳をもらうのは一般的には胎児心音の確認後ですが、妊娠5~6週(妊娠2ヵ月ごろ)から分娩受付可能な場合も多いです。希望する産院があっても、すでに予約が埋まっている、里帰り出産を受け付けていない、転院前に受診する必要があるといった場合もありますから、早めに希望する産院に確認しましょう。
産院を選ぶとき、産院に求めることはいくつかあると思います。でも、いちばん大切なのは、赤ちゃんを安全に産むこと。自分に必要な医療行為を受けられるところを候補に挙げ、その候補の中から求めるサービスを受けられる産院を選ぶといいでしょう。
産院・病院の種類について
産院には、ハイリスク妊娠・出産に対応できる総合病院からアットホームな雰囲気で出産できる助産院まであり、それぞれにメリット・デメリットがあります。産院の種類と選ぶときにチェックしたいポイントをまとめたので、参考にしてください。
【産院の種類】
●総合病院・大学病院
総合病院は、産婦人科以外に内科や外科などの主要な診療科を有する施設。大学病院は、診療以外に研究や教育といった役割も担っています。病院によってはNICU(新生児集中治療室)を設けているところや、総合周産期母子医療センターというMFICU(母体・胎児集中治療管理室)とNICUを備え、母体の救命救急への対応やハイリスク妊娠に対する医療、高度な新生児医療を行うための設備を設けているところもあります。母体や胎児、生まれた赤ちゃんに大きな問題があった場合でも迅速に処置ができるため、出産リスクに不安を感じている場合は、総合母子周産期センターやNICUのある総合病院を選ぶといいでしょう。
その一方、健診のたびに医師が代わることがあったり予約をしても待ち時間が長かったりする場合もあります。大学病院では、教育機関でもあるので、時期によって研修医の立ち会いがある場合もあります。また、最近では助産師外来が設置されているところも増えています。
●産婦人科病院
ベッド数20床以上の産婦人科専門の病院。産科に小児科を併設した母子専門病院も。その施設では受けられない高度な医療を必要とするトラブルが起きた場合の対処法を確認しておきましょう。
●分娩施設がある個人産院・クリニック
ベッド数が20床以上は病院、19床以下をクリニック(正式には診療所)といいます。入院中の充実した食事や、妊娠中・出産時のサービスが充実していて、特徴がある施設が多く、助産師主導のシステムをとっている施設も。自分の希望と、施設の方針が合っているか確認しておいた方がいいでしょう。食事や入院する部屋が豪華だったり、エステなどを受けられたりする場合、場所によっては100万円ほどかかるところもありますから、産院選びの際に前もって調べておきましょう。
●助産院
助産師が開院している分娩施設。少人数制であるところや、他の施設に比べて家庭的でリラックスしやすい雰囲気のところが多いです。妊婦さんの希望の出産の仕方に合わせてくれることから、出産方法にこだわりのある人などの利用もみられます。一方、医療行為ができないため、母子ともに正常経過である場合しか利用できません。ほかにも、分娩中に母子が危険な状態になった場合、もしくは妊娠中に何か問題があった場合は、提携先の産院へ搬送しなければならないためその点も了承した上で、助産院を利用するのがよいでしょう。里帰り先の助産院で出産する場合、提携先への紹介状や事前の受診が必要なこともあるので、前もって問い合わせておきましょう。
●分娩施設がない婦人科クリニック
妊婦健診のみを行い、分娩施設がない小規模の施設。最近では、妊婦健診はクリニックで行い、分娩は病院で行うというセミオープンシステムも多く利用されるようになりました。里帰り出産の予定がある妊婦さんは、里帰り前までの健診を受けることができます。夜間に医師がいないことも多いので、緊急のトラブルがあったときにはどう対応すればいいのか、事前に確認しておきましょう。
【産院選びでチェックしたいこと】
1 自分のリスクに対応できる施設か
持病がある、反復流早産、多胎など、リスクを抱えている場合は、自分が必要とする医療が受けられる体制が整っているかを最優先に考えましょう。
2 緊急時の体制や提携先の医療機関はどうなっているか
妊娠・出産、産後の赤ちゃんの緊急時に、その施設でどのような対応をしてくれるのか、どこに搬送されるのかを確認しましょう。
3 家からの距離
里帰り先の家から産院までの所要時間は、妊婦健診のほか、予期せぬ体調不良、出産などで深夜に行く場合を考慮すると1時間以内が許容範囲。地域によっては分娩施設が少なく、遠くなってしまう場合もあります。何通りかの交通手段を調べておきましょう。
4 分娩費用
どの施設で出産するかによって、費用は大きく変わります。分娩・入院費用から出産一時金42万円を差し引いた額が産院に支払う金額です。豪華な食事などサービスが充実していれば費用も高くなりますし、個室か相部屋かによっても金額は異なります。事前にどのくらい費用がかかるのかを確認しておくといいでしょう。
5 出産方法
一般的に総合病院や大学病院は、分娩台の上で出産するスタイルをとっているところが主流です。産院によって実施できる出産スタイルはある程度決まっているので、希望するスタイルがあるなら、それが可能か確認して選ぶのがよいでしょう。
6 立ち会い出産ができるか
夫や両親に立ち会ってほしい場合、出産の際に立ち会いができるかどうかを確認しておきましょう。産院によっては「立ち会いはひとりだけ」「立ち会い自体がNG」など制限がある場合もあります。
7 入院部屋はどんなタイプがあるか
産後の入院部屋には個室と相部屋の2タイプがあります。個室はゆっくり過ごせる反面、料金が高め。相部屋は料金を抑えられる反面、他の人と一緒に過ごすため人によってはストレスを感じる場合も。予約状況や出産当日の状況によっては希望の部屋に入れないこともあるため、その点も合わせて確認しておくといいでしょう。
8 産後入院では母子同室か、別室か
出産後、赤ちゃんと同じ部屋で過ごす産院もあれば、授乳や沐浴指導などのとき以外は、赤ちゃんは新生児室で過ごす産院もあります。赤ちゃんと離れるのは寂しいですが、出産後はお母さんも疲労困憊の状態。自分の体力なども考慮した上で検討しましょう。
9 医師、助産師などスタッフとの相性はどうか
妊婦健診や出産では、医師や助産師などのスタッフとの信頼関係も大きなポイントに。なかには、性格や考え方が合わないと感じる人もいるでしょう。何度か通わないとわからないかもしれませんが、うまくやっていけそうかという感覚も、ある程度大切にしましょう。
10入院中の食事の内容、サービスは何があるか
入院中の食事はお祝い膳のほか、趣向をこらしたメニューを用意しているところもあります。また、産後の体をケアするためのマッサージ、エステティックなどのサービスを行う産院も。どのような内容かは、各産院に確認してみましょう。
里帰り出産での注意点
里帰りする時期は、現在健診を受けている産院と転院先の産院の両方に伝えておきます。人気のある産院などは、すぐに予約が埋まってしまうこともあるため、早めの予約や受診をおすすめします。遅くとも妊娠32週から34週ごろまでには里帰りして、出産予定の産院に転院しましょう。
転院の際には、検査の重複を避けたり、妊娠の経過を正確に転院先に伝えたりするために、現時点で通っている産院・産婦人科からの紹介状(診療情報提供書)が必要になります。早めに時期を伝え、紹介状を準備してもらいましょう。紹介状の作成には、2,000円~3,000円ほど費用がかかることもあります。
里帰り先が現在住んでいる自治体と異なる場合、「妊婦健康診査受診票」が基本的に使用できないことがほとんどです。しかし、各市区町村と提携している産院では有効です。健診時の領収書や未使用の妊婦健康診査受診票など、必要書類を提出することで一部返金してくれる自治体もありますから、事前に確認しておきましょう。
出産後は、赤ちゃんに関するさまざまな手続きが必要になります。夫の会社に書類を提出し、記入してもらうものもありますから、里帰り前に必要な書類を用意してきましょう。
【準備しておきたい書類】
・出生届
・児童手当
・乳幼児医療助成金
・健康保険加入
【必要に応じて提出する書類】
・育児休業給付金(働いているママ)
・出産手当金(働いているママ)
・医療費控除
・高度医療費
上記のほかにもどの書類が必要か事前に調べ、産前に準備できるものはしておきましょう。
まとめ
安心安全なお産を考え、どういうお産をしたいのか、何を重視するのか、産後ケアも含めてパートナーとよく話し合って分娩先を選び、余裕をもって里帰りをしましょう。
PROFILE
天神尚子このライターの記事一覧
産婦人科 | 三鷹レディースクリニック院長
日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、1995年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。