現在小学1年生の長女キノちゃんと2才の双子と共に、家族5人で鎌倉に暮らす写真家の加治枝里子さん。国内外を撮影で飛び回りながらも、自分たちらしい家族の在り方を求めて、海と山に囲まれた町で充実した日々を送られています。そんな加治さんへのインタビューの後編では、双子の妊娠・出産?子育ての毎日?自分時間の楽しみ方についてお話を聞きました。
——双子の妊娠が分かったときのご家族の反応はいかがでしたか?
加治さん
長女のキノが4才のときに双子の妊娠が分かりました。でも一卵性だったので、最初は双子かどうかは分からず、何回目かの健診で先生が「あれ?心臓が2つあるね」って。夫には電話で報告したのですが、驚きのあまり無言でしたね(笑)。自主保育のお友達に話したところ、キノが双子のきょうだいをずっと欲しがっていて絵に描いていたと聞かされて、不思議な巡り合わせを感じました。私自身は、仲のいい友達の子どもが双子で、傍目で見ていてとても大変そうだったので、本当に「まさか…」という感じでした。
——双子の妊娠中はどのように過ごされたのですか?
加治さん
長女のときと同じで、双子のときもつわりがなく、それは助かりましたね。体調も安定していて、キノの自主保育の付き添いで時々一緒に森を歩いたり、適度に体を動かしていたのもよかったのかもしれません。ですがマタニティ期の最後の方は、歩くとすぐおなかが張ってしまうので、横になることも多かったです。ただ寝転んで左を向いても右を向いても苦しくて…本当は出産前にやりたいことをたくさんリストアップしていたのですが、仰向けが一番楽な姿勢だったので、結局ほとんど何もできずに諦めてのんびり過ごしていましたね。そんなとき、寝室にいて波の音が聞こえてきたのには癒されました。多胎児出産の場合は事前に管理入院をすることが多いのですが、それもなく体調は安定していたと思います。
——前編で、長女キノちゃんのときはフリースタイル出産だったと伺いました。双子はどのように出産されたのですか?
加治さん
一卵性の双子と分かってからは、それまで通っていた産院ではなく、大きな医療センターに転院するように言われました。双子もキノと同じように自然分娩で産みたいと思っていたのですが、病院からは自然分娩で双子を産むための出産条件をいろいろ説明されました。例えば、「37週と5日で産んでください」「体重も●g以上で」「2人とも逆子でなく下を向いていること」などといったものでした。そして出産が近づいた頃に、「すべての条件が当てはまっているから自然分娩も可能ですよ」とゴーサインが出て。でも同時に自然分娩のリスクも聞き、帝王切開とどちらにするかをギリギリまで悩みました。最終的には、子どもの命のリスクと自分のやりたいことを天秤にかけ、帝王切開に決めました。それからは自然分娩と帝王切開どちらも経験できるのは人生経験としては面白いとポジティブに捉えましたね。
——出産後、家族5人の生活はさぞかし賑やかでしょうね!双子用の準備はどんなものがありましたか?
加治さん
出産前に、「双子ならではのグッズに頼らなきゃ大変だよね」と夫と相談し、いろいろ用意しました。まずは自動で適温のミルクが作れるミルクマシン。あとは双子用の抱っこ紐や腰が痛くならないように高さの調節ができるオムツ台、ダブル授乳用の枕も揃えました。ダイニングの椅子に付けられるニューボーンセットも新たに購入しましたが、これもとても役に立ちました。そして夫は3ヵ月間の育休を取得してくれました。
——旦那様の協力が不可欠ですよね。双子ならではのエピソードはありますか?
加治さん
新生児の頃は2人合わせて1日30回くらいオムツを替えてました。でも一番大変だったのは夜の授乳です。1人ずつ抱っこで授乳をして、やっと寝たところでベビーベッドに寝かせるんですが、置いた瞬間にもう片方が起きる(笑)。一晩中その繰り返しで、眠れないのは辛かったですね。1才くらいになった双子との生活は、5分に1回は事件が起きている感じでした。少し目を離すと床が小麦粉で真っ白になっていたり、買ったばかりの化粧クリームを全部使われていたり。「あなたたちモンスター!?」って聞きたくなるくらい(笑)。不思議なことに、2人になるとすごいパワーでイタズラも2倍、3倍になる感じです。でも双子はそれぞれに性格も違ってとても面白いですよ。2人が一緒に遊びながらケタケタ笑い合ってるのを見ると微笑ましくなります。お揃いの洋服コーデを楽しんだり、双子ならではの楽しみも多いですね。自主保育の友達がみんなで面倒を見てくれるのもよかったなと思います。双子を見ると子どもたちがすぐに寄ってきて、いつも抱っこしてくれて本当に助かりました。兄弟やお母さんが何人もいる感覚で、今ではみんなのことを「ママ、ママ」と呼んで甘えています。
——育児中のリフレッシュ法はありますか?
加治さん
週末に夫に子ども3人を見てもらい、1人でカフェでのんびりしたり、映画館に行ったり。環境を変えて数時間を過ごすだけでも気分が変わりますね。最近はサウナで「ととのう」時間も贅沢なひとときです。あとは海が大好きなので、煮詰まった気持ちになると海に行って気持ちを浄化してもらいます。昨年は雑誌の仕事でフィンランドに1週間出かけました。仕事は自分自身に戻れるときで、続けているのが支えになっていますね。写真展用に真っ暗な暗室にこもってプリントをする時間もそう。好きなことをやっていられてよかったなと思っています。
——子どものいる生活で、加治さん自身は以前と変わりましたか?
加治さん
子どもがいる生活は毎日が刺激的で、本当にいろいろと教えられることが多く、さらに濃くなりました。私自身は大きく変わったように感じていたのですが、先日、20年来の友人が写真展に来て作品を見てくれて、「撮る写真の芯の部分がいい意味で全然変わってないね」と言ってくれたのが嬉しかったですね。人間そこまで変わらないんだなって思いました。でも、撮りたい写真には変化があったかもしれません。子育ての瞬間瞬間をもっと作品として撮りたいと思っていますし、社会性のあるテーマも撮っていきたいと今は思っています。
——今回のインタビューには、加治さんに「海の音と森の光」という素敵なタイトルをつけていただきました。この言葉に込めた想いを教えてください。
加治さん
毎日のように海の波の音を聞き、森の光に包まれて、青空の下でキラキラとした子どもたちの笑顔に囲まれて子育てをしています。あっという間に過ぎる幼少期をこれからも大切に過ごしたいという思いを込めました。
PROFILE
加治枝里子このライターの記事一覧
2006年にパリを拠点に写真家として独立。2010年から活動の場を東京に移し、『TRANSIT』をはじめとした旅雑誌などで活動。定期的に写真展を開催しフィルムでの作品制作を続ける。幼少期にニューヨーク州北部の湖や森に囲まれ育った影響から、2019年夏に鎌倉に移住。園舎のない「青空自主保育」で毎日、海や山で子どもたちと日々を過ごす。長女と双子の3児の母。
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@dendenmushi_kamakura
(制作 * エチカ)