先輩パパとママの毎日コラムvol.1

ハルちゃんと僕「ある日のこと」

2016/4/4
ハルちゃんと僕「ある日のこと」 ハルちゃんと僕「ある日のこと」

アムステルダムに暮らしながら写真家・文筆家として活動する小野博さんの、愛娘・ハルちゃんとの日々。

ある日朝起きてコーヒーを飲んでいると、起き抜けの妻が「妊娠した」とつぶやいた。 僕も寝ぼけていたので「おー」と答えたけど、拍子抜するくらい実感はなかった。 それからというものエコーで赤ちゃんを見ても、心拍を聞いても、胎動に触れても父親になるという実感が込み上げてくることはなかった。

そんなある日、誰が見ても妊婦に見えるくらいのお腹になった妻と買い物に出かけた。 スーパーマーケットに入ろうとした時、ちょうど大きなお腹を抱えたオランダ人の妊婦さんが手ぶらで出てきた。 そしてお隣りにはご主人だろう男性が大きな買い物袋を二つ抱えて歩いていた。 それを見た瞬間「ピーン」ときた。 あーそうだよねと。 僕のように絶望的に気の利かない男にもわかりやすく妊婦を気遣うとはなにかを具体例を教えてもらった。 早速レジを終えて買い物袋を持ち上げようとする妻に「僕が全部持つよ」と言うと、妻はニヤッと笑って「気づくの遅いよ」と言った。 持ち上げた買い物袋はずっしりと重かった。 それから身重の妻の隣りを、買い物袋を抱えて歩いた。

すると、不思議と「自分の人生」が「子どものいる人生」になったことを少しだけ感じることができた。 妻と僕の間にもう子どもがいるんだなと。 なるほど。 それからしばらくして娘が生まれた。

「遙子(はるこ)」という名前をつけられた娘は、自分のことを「ハルちゃん」と呼ぶ女の子になった。 いつの間にか「ハルちゃん」は社交上手になっていた。 たとえば、一度仲良くなった人を発見したら、パタパタ駆け寄って「ギュー」と言いながらとハグをする。 二才児にこれをされると、どんな気難しい人でも溶けてしまう。 我が娘ながらなかなかやるなと思う。

可愛い愛娘

外面がいい反面、親に対してはきちんと自己主張をする。 どんなに僕が真剣に仕事をしていても、読んでほしい絵本や遊びたいオモチャがあると、机の上に持ってきて「コレコレ!」とせがむ。 僕は生まれつき自己中なのだが、娘に頼まれるとさっさと自分のことを中断してお付き合いしてしまう。 それはきっと娘が全力で「僕と遊びたい」とぶつかってくるからだ。 僕の自己中はハルちゃんに骨抜きにされる。

そういえばこの間、娘と二人きりで空港にいた。 やっとゲート前に到着して椅子に座った。 数日ネットが使えなかったので、スマホを取り出してしばらくネットサーフィンを楽しんでいた。 すると隣に座っていた娘が突然僕の膝をパシーンと叩いた。 びっくりしてスマホから娘の方に目を向けると、娘は僕をじっと睨みながら、自分の胸に両手を当てて「ハルちゃん!!」と怒鳴った。 それを聞いた瞬間、僕は大きな声を出して笑ってしまった。

まだまだ赤ちゃんだと思ってたけど、女の子を通り越して、いつのまにやら一人前の女性になったみたいだ。 まだ言葉で自分をうまく表現できないけど、その向こうにはすっかり大人じみた感情があるだなと。 わかったわかったと、僕は娘を抱っこしてガラス越しに飛行機を見に行った。 機体を指差して娘が「ひこうき」と呟く。僕が「大きいね」と言うと、「ヤー(うん)、おおきいね」とオランダ語と日本語まぜまぜで答えた。 娘は満足そうな顔をして暮れゆく夕日をずっと見ていた。

自転車でおでかけ
小野博

PROFILE

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写真家・文筆家。2002年よりアムステルダム在住。著作に世界を旅した記録を綴ったエッセイ集『Line on the Earth ライン・オン・ジ・アース』(エディマン)、日本とアムステルダムでの暮らしを綴った『世界は小さな祝祭であふれている』(モ・クシュラ)など。

(制作 * エチカ)

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