ミュージシャン、絵描き、会社員として、フォトグラファーの妻と夫婦で綴る育児奮闘記。今回は、ついに感動の出産編です!
先程も書いたように妻は携帯にメモを取っている。今回の妻のコラムはそのメモが元になっている。そのメモには「夫、パンを食べに外に出る」と書いてあるらしく。はて?そんなことあったっけ?と思いながら思い返してみる。多分緊張していたんだな。外の空気でも吸いにいったんだきっと。コラムを書きながら自分に言い聞かせている。
「痛い。先生を呼んで!」
妻はリラックスできる匂いを含ませたタオルを口元に当て横を向きながら陣痛の痛みに耐えている。電車に乗る時などマスクに同じ匂いをつけていたのを思い出す。下手に背中をさするのも嫌みたいだ。心拍も上がり呼吸も苦しいだろうから落ち着いてもらえるよう声をかけた。痛みの想像がつかない中でもっとフォローできることがあったかもしれない。と今更ながら思う。
ここで事件が起きた。痛みの限界らしくナースコールを押したが他にも出産する方が数名いて先生や助産師の方々も慌ただしくなかなか来ない。それはそのはず、僕は間違えて麻酔のボタンを押していたのだ!「え?うそでしょ?」と妻。そこへ「どうですかー?」と先生。「すいません。麻酔のボタン押しちゃいました!」と慌てる僕。どうやら痛みに耐えられなくなったら自分で押せるようにセットされてたものだったらしく大事には至らなかったが冷や汗が出た。
そしてついに。子宮口の開きを確認していざ出産へ!陣痛のタイミングで深く息を吸って止めていきむ。できるだけ長く。僕は頭側に立ち、右手にカメラを持ち左手で妻の首を支える。先生が妻のおなかを押している。助産師さんが子どもの状況を教えてくれる。緊張している僕をよそに妻は先生に「おなか空きました」やら、僕が持っているカメラの説明やらを陣痛の合間に喋っている。
「なんか、想像してたのと違うな(笑)」
そしてその時。朝の7時頃に破水してから始まり夜の18時過ぎ、第一子が無事産声をあげたのである。僕も「おおー」と声にならない声をあげ、妻によく頑張ったね。ありがとう。と頭に手を置き涙が今にも溢れそうな時に、助産師さんが「かわいいーおにぎりみたいー」と、たぶん食事もろくに取らずに頑張ってくれてたのだろう(笑)。
一瞬、妻の胸に抱かれた娘。
触っていいものかと戸惑う僕に「指を近づけるとギュッと握りますよ」と助産師さん。恐る恐る人差し指を持っていくと思ったより力強くギュッと握ってくれた。この小さな手がおなかを叩いてたのか。この小さな足がおなかを蹴ってたのか。やっと会えたんだな。無事産まれてくれてありがとう。
その後は別室で身長体重やらを測り、呼吸が少し弱いということで保育器へ。そこに立ち会えない妻の代わりに一部始終を記録した。
妻は出血が酷かったみたいで貧血を起こしていた。そのまま分娩台に横になり休むことになった。思ったより大丈夫そうに見えてたけどそんなわけないよな…と思っていたら。
「おなか空いた」と妻。
動けないので分娩台でご飯を食べることになり、さっきまでヒーヒー言ってた場所でフカヒレを食べている。そして一言。
「あと5回くらい産みたい」「なんだか今日は何もかもが想像と違うな(笑)」
この日撮った映像をコラムを書くにあたり久しぶりに見てみた。妻はこっそり何度も見ては涙しているらしい。産まれた瞬間のことは脳裏に焼き付いている。娘に見せてみたがまだニコッとするくらい。憶えているのかな?喋れるようになったら教えてもらおう。
妻はまだ歩けなくて車椅子で病室まで。また明日くるね。ゆっくり休んでね。と僕は帰宅。今朝の慌ただしさを残した部屋で1人ソファに座り、ふーっとひと息。どうやらたった1日で世界は大きく変わってしまったみたい。
お父さんになった。お父さん?って、何するんだっけ!?
結局のところ、側にいただけで何もできなかったんじゃないかと思う。頑張ったのは妻と娘である。出産時思ったふたりに対しての「ありがとう」という気持ちは忘れてはいけないなと思う。母子共に健康でひとまず安心した。早く明日にならないかな。
こうして想像とは違う1日に想像以上に可愛い娘が産まれたのでした。