ベビー・マタニティ用品メーカーのピジョンとベビーケアルーム「mamaro」(ママロ)を開発しているTrim(トリム)が授乳・さく乳環境改善のための新たな試みをスタートするとのことで早速取材に行ってきました!授乳室や、赤ちゃん連れでのお出かけのイメージがちょっと変わるかもしれません!
大日本印刷株式会社(以下、DNP)が運営するオープンイノベーション施設「DNPプラザ」内に、設置型のベビーケアルーム「mamaro™」が設置されました。来館するママやパパに向けた設備となりますが、ピジョンがここで新たな取り組みを始めるということで、3人のお子さんのママでもあるDNPの大辻さん、「mamaro™」の開発会社であるTrim株式会社の齋藤さん、ピジョン株式会社の池谷さんにお話を伺ってきました。
取材でお話を伺った方
おふたりとも現役育児中のママとパパです。
目次
◆地域の共創の場に出現し、新たな価値を生み出す「授乳室」
ー住宅街とビジネス街が混在する市ヶ谷にあるDNPプラザに「mamaro™」は設置されました。まずは、DNPプラザとは、どのような施設なのか教えてください。
大辻さん
共創活動や、実証実験を行っていく場となっています。DNPの独自の「P&I」(印刷:Printingと情報:Information)技術に、パートナー企業のテクノロジーを掛け合わせて、「未来のあたりまえ 」を創っていく、新しい価値づくりをしていく施設なんです。
具体的には、例えば、今までにない「本との出合い方」を試す実験型の書店があり、そこでは様々な企画で、来館される皆さんとコミュニケーションを取りながら、新たな価値を生み出していたりします。
ーどちらかというとビジネス街にある施設ではありますが、どのような方が来訪されていますか?
大辻さん
そうですね。このエリアは、住宅街も隣接しているので、ベビーカーでお子さま連れの方も良くお見掛けします。カフェもあるので、休憩に利用していただくこともありますね。
ーお子さんにも来ていただけるのは、うれしいですね。
大辻さん
そうですね。地域貢献になっていれば、というところもありますし、共創の場というコンセプトの中、未来を考えるには欠かせない存在であるお子さまがご来訪されるのは、うれしいです。
ーそんな、お子さんに来ていただく為にも、「授乳室」がある、ということは大事なポイントですね。
大辻さん
そうなんです。ショッピングモールのような「お出かけ」をする場には、設置されることが増えてきましたが、こういった都心のオフィスのような場所にはなかなかないんですよね。
DNPプラザには、「mamaro™」がありますので、ベビーカーでお子さま連れでも、安心してご来訪頂ける場であると思います。
◆赤ちゃんとのお出かけに伴う社会課題の発見
ー設置型のベビーケアルーム「mamaro™」はどのように開発されたのでしょうか?
齋藤さん
会社創業時には、「mamaro™」ではなく、授乳室・おむつ交換台検索アプリ「Baby map」を運営するところからスタートしました。これは、授乳室や、おむつ交換台がどこにあるか地図上で検索できるアプリです。
実際にお出かけをされるママやパパ達が多く使ってくださり、利用されるシーンを伺うと、事前にどこに何があるか知った状態でないと安心してお出かけができないから利用している、という声を数多く聞くことができました。
ーなるほど。外出していざ困っている状態になってから探し始めるのは大変ですしね。便利なアプリですね。
齋藤さん
みなさんに便利にご活用いただく為に、授乳室の状態を毎年網羅的に管理していくのですが、毎年80万人近い赤ちゃんが生まれてくる中、全国の授乳室が約3万室しかない事実がわかってきたのです。これはアンバランスだな、と感じました。
アプリの利用者にお話を伺うと、「空いていなかった」「多目的トイレを案内され、授乳というシーンにはそぐわなかった」といったようなお声を度々頂く中で、「授乳室が足りていない」という社会課題にたどり着いたのが、開発のきっかけの一つです。
ー便利なアプリを運営されていたからこその発見だったのですね。
齋藤さん
また、お出かけをする時に、事前に調べてから出かける、という行動は、逆を言うと「ない場所には行けない」という側面があり、「赤ちゃんを連れてお出かけをする」ということが制限をされているという社会課題もあるということにたどり着いたのです。
ー赤ちゃん連れということで、制限を感じてしまう瞬間は残念ながら度々ありますね。
齋藤さん
そうなんです。そこで、単純ではあるのですが、足りないのなら増やせばいいじゃないか、と思い、様々な施設の方にヒアリングをしてみたんです。そうすると、今度は「コスト」「施工場所」「施工期間」の問題から、すぐに施設に授乳室を作って増やしていくことは難しいことが見えてきました。
また、最近は意識がだいぶ変わってきていますが、当時はまだ授乳室が足りない、ということ自体が社会課題として施設の方々も把握しきれていない印象もありました。
ー確かに新しい施設には元々授乳室が設計されているところが増えてきましたが、既存の施設で急に授乳室を増築することは難しそうですね。
齋藤さん
はい。そこで、今の「mamaro™」のアイデアにたどり着くのですが、「工事の必要がない」「授乳ソファとおむつ交換台を完備しているユニット型で場所もとらない」授乳室があれば、社会課題が解決され、ママやパパのお出かけがもっと不便なく楽しいものになるのでは、という考えに至り、プロトタイプの制作が始まったのです。
プロトタイプから今の形に仕上がるまでの間には、実際に利用していただいた方達の声を活かし、授乳中に荷物をかけられるフックをつけるなど、ユーザーの声を元に利用しやすい改良を行ってきております。
◆新たな可能性が広がりつつある「授乳室」
ー3人のお子さんのママである大辻さんから見て、「授乳室」という施設はどのような設備ですか?
大辻さん
一番上の子が11才、下の子が2才で、約10年の子育て環境の違いがあるのですが、上の子の時は、やはり出かける前に設備を調べてから出かけるようにしていました。
友人とランチに出かけることが多かったのですが、授乳室のある施設に1時間位前に着くようにして、しっかりと授乳をして、友人との時間を楽しむようにする為の場として、利用していました。準備の場、というか、子どもと私だけの授乳の場としてあるだけで、そこに他の機能は求めていなかったと思います。
上の子が2才半になったとき、2番目の子が生まれ、そうすると、3人で入る場になり、カーテンタイプのところではなく、快適性を求め、個室になっているところを探すようになりました。クチコミを見て、どこが快適か、空いてそうか、と言った目線で探していました。
そして、3人目が生まれてから驚いたことは、今までに比べ、ネット上にある情報が多くなったことですね。以前は、施設情報を見て授乳室を探していたのですが、今は、ユーザー発信のクチコミ情報がとにかく多くなりました。
渋谷に行こうと調べていたのに、池袋にも色々な情報があって「え、池袋って意外と行きやすい街なの!今度行ってみよう」と、クチコミを通じて発見するようなことが増えてきました。
ー目的の場所の情報を調べていたつもりが、新たな可能性があることも知れるなんてステキですね。
大辻さん
設備自体の進化も感じます。2人目の子の頃は、せいぜい鍵がかかる個室になっている位だったのですが、最近では、家族で一緒に入れるところなどもでてきました。家族で授乳室に入る経験をすると、みんなでワイワイ子育てをするのって楽しいな、ということを感じるんです。そういうのって、なんかいいですよね。
ワンオペという社会課題を耳にすることも多く、夫婦で負担を軽減しよう、など堅い解決策になってしまいがちですが、みんなでもっと楽しく外出や子育てができるようになると良いなと感じます。家族で入れる授乳室など、そういうことができる環境が実現しつつありますよね。
ーそうですね。子育てなので、効率を重視するだけではなく、ぜひ楽しんで頂きたいですね。
大辻さん
街中でも、お父さんと子どもふたりでお出かけしている方も普通に見かけるようになったと感じます。子育てをする世代の考え方も変わってきているんだと思いますし、企業の姿勢も変わってきているように感じます。社会がやさしくなってきていますよね。
◆ベビーケアルームという役割
ー育児環境の進化という点で、授乳室は大きな転換期にあるということがわかってきました。「mamaro™」では、この流れをどのようにお考えになりますか?
齋藤さん
実は、「mamaro™」の前面に「男性も利用可能」という表記をさせて頂いております。ぜひ、男性にこそ利用してみて頂きたいと思います。カラーリングも木目調でどなたでも利用しやすい色合いにしています。
ーなるほど。赤ちゃんのお世話をする人たちみんなが使いやすい工夫がされているのですね。
齋藤さん
男性でも入りやすいデザインというのは、かなり考えて作られています。男性が利用をすることで、もちろんお子さまの為にもなりますし、男性の育児参加率があがるということは、回りまわって、ママの為にもなってくる。そして家族の為にもなってくるようになると考えています。
ーどうしても女性専用となりがちな授乳室ですが、ママ達へ一定の配慮をすることで、フラットに利用できる授乳室があることは確かに新しい未来の形を感じますね。
齋藤さん
私自身も、育休中に子どもとたくさん出かけていたのですが、当時は今以上に男性が入れる授乳室が少なく、部屋の前まで行っても男性が入れず「ママよろしく」と授乳室の外で待っているだけになってしまう、ということをたくさん経験しました。
これからの社会で、そういった不便さがずっと続くということはナンセンスだと感じています。我々Trimとしても、個人的にも、よりよい社会を作っていきたいと感じております。
ー実際に経験をされた中での発想なのですね。「mamaro™」はどのような用途で利用されるとよいでしょうか。
齋藤さん
もちろんママに使ってもらいたいという想いは前提にありつつも、パパもおじいちゃん・おばあちゃんにも、様々な方々に使ってもらいたいです。
授乳だけの用途ではなく、おむつ交換や、泣いた赤ちゃんをあやす場として利用して頂いてもいいですし、ママがさく乳の目的で利用してもらうこともよいと思います。このような幅広い用途での受け皿となることで、社会をもっとよくしていけるとよいですね。
ー先ほどのお話に出ていた、企業の姿勢が変わってきていることを感じました。みんなにとって、「やさしい場」なんですね。「授乳室」という呼び名も変わってきそうですね。
齋藤さん
そうですね。「mamaro™」は、わかりやすさ重視で「授乳室」と表現することもありますが、正式には、「ベビーケアルーム」という表現を使っています。赤ちゃんケアの用途であれば、なんでも使って欲しい、という想いがこもっています。
ー「ベビーケアルーム」いいですね。フレキシブルに赤ちゃんの為に利用したい人が利用できる場だ、ということが伝わってきます。
池谷さん
ピジョンが先日行ったアンケートでも、パパが使える授乳室があるとよい、と言う声が、思った以上に多かったんです。パパもママもフラットに育児をしているご家庭も増えてきているのですが、授乳室がママしか入れないところがまだまだ多いので、お出かけはママがいなければできない、と言う声がありました。どうしても、授乳はママの役割と決まってしまう、ということに違和感を感じている方も増えてきているようなんです。
齋藤さん
人の意識は変わってきているんですが、まだハード面で追いつけていない部分もありそうですね。
◆母乳育児を行う際の、さく乳というソリューション
池谷さん
「mamaro™」は男性も使えますし、ママもさく乳の用途でも使えていいですよね。
大辻さん
さく乳は知っておきたかったです。。。当時さく乳は痛い時に行うもの、という認識だったのですが、母乳を保存して積極的に利用する方法を知っておけばよかったです。
池谷さん
そうなんです!母乳をさく乳・保存して活用する、ということを知らない方がまだまだ多いんですが、さく乳した母乳をパパや家族があげられるというソリューションを知っておくことで、生活の幅が広がると思います。「mamaro™」をパパが使える、ということを知っておくことも大事なソリューションの一つですよね。視界が開けると思います!
ママが直接授乳ができない時は、パパや家族も母乳をあげることができるというソリューションを知ることで、母乳育児をもっとフレキシブルに考え、より楽しんでもらえるのではないかと思います。
大辻さん
母乳育児は、何か我慢することにつながる、と思ってしまっていたんですよね。仕事に復帰するから断乳する、とか、長時間出かけるから、母乳はあげられない、とか。母乳を選ぶことで何かをあきらめていたことがあったように思いますが、たしかに、さく乳というソリューションを知っておくことで、どちらも諦めずにできたんですよね。そのことを知っておくことだけでも、だいぶ違ったように思いました。
ー「未来のあたりまえ」を創っていく、新しい価値づくりをしていく場である、DNPプラザでの取材でしたが、まさに、これからの育児の形をお聞きできる取材となりました。働き方なども含め、社会が大きく変わっている今だからこそ、育児のあたりまえも変わっているタイミングなのかもしれませんね。
◆授乳・さく乳環境改善のための新たな試みをスタート
池谷さん
ピジョンは、「mamaro™」を提供するTrim株式会社と共に、2022年7月から外出時の授乳やさく乳のよりよい環境づくりをする新たな試みを、DNPが運営するオープンイノベーション施設「DNPプラザ」内でスタートしました。
この世界をもっと赤ちゃんだけでなくママとパパにもやさしい場所へ
ベビー用品のピジョンとベビーケアルーム「mamaro™」が授乳・さく乳環境改善のための新たな試みをスタート!
(ピジョン)
「母乳育児をもっと自由に」という想いを込め、2022年3月に開始した「#フレキシブルな育児生活プロジェクト」において「今の育児がもっとこうだったらいい」というママとパパの声を収集した結果、授乳室の環境改善に関わる声が多く、「授乳姿勢の取りにくさ」など外出時の快適な授乳環境を求める実態が明らかとなりました。ピジョンでは、外出時の授乳やさく乳のよりよい環境づくりをする新たな試みを行うため、「mamaro™」設置の一部の施設様に、「授乳クッション」「授乳クッション用不織布カバー」「母乳パッド」「授乳室の新しい在り方を提案するポスター」を設置いただけるよう働きかけを行いました。
「mamaro™」を利用頂いた際に、今回のお話にあったような「未来のあたりまえ」を感じて頂くきっかけになればと思います。育児をするママとパパの生活は、近い未来もっとフレキシブルになっていくことでしょう。
●取材協力
Trimが提供する設置型ベビーケアルーム「mamaro™」
畳1畳ほどのスペースに設置可能な、可動式の完全個室ベビーケアルームです。授乳だけでなく、おむつ交換や離乳食、寝かしつけや着替えなど、幅広い赤ちゃんケアにご利用いただけます。また、授乳室やベビーケアルームの設置場所を検索できるアプリ「mamaro GO™」にて、「mamaro™」の利用状況をリアルタイムで把握できるサービスも提供しています。
https://mamaro.trim-inc.com/
●取材協力
DNPプラザ
DNPは、より良い社会の実現に向けて、イノベーションをより迅速に、より効率的に実現していくため、スタートアップ企業をはじめ、多様なパートナーとの共創による新規事業の創出を行っています。
多くのパートナーとの共創型で実証実験する「場」でもあるDNPプラザに「mamaro™」を設置することで、「mamaro™」を体験された生活者の声を「mamaro™」の改善、新しいサービス開発に活かし、子育て世代に優しい社会づくりに貢献していきます。
https://dnp-plaza.jp/