パパ・早川敏浩さんが写真とともに振り返る、早川家の子育てのこと。
「風ちゃん、お兄ちゃんになったね」「うん、僕お兄ちゃんになったよ」
2010年11月3日、10時52分、分娩室。第二子、くるみが生まれた。僕は右手でカメラを構え、左手で風雅の小さな手を握り締めた。
一部始終を僕と一緒に見ていた風雅は、まだ緊張が取れない表情だった。「今日から妹のことをよろしくね。あんなに小さいんだから優しくしてあげて。色々助けてあげてね」風雅は「うん。僕お兄ちゃんだから」としっかり頷いた。
その時は本当に軽い気持ちだった言葉と約束。風雅もまだ2才半、1人目の子で甘えん坊だったし、妹が生まれたら赤ちゃん返りするかも、なんて思っていた。ところが、その日からびっくりするくらい妹思いのジェントルマンに変身した。病院でも、自宅に帰ってからも、くるみの様子を観察し「寝とる」「起きとる」「泣いとる」と事細かに報告してくれる。抱っこやミルクをあげるのもいそいそと手伝ってくれる。まるで自分が子育ての責任者になったみたいに。
ある日、聞いてみた。「風ちゃん、お母さんのおっぱい飲みたいと思わんの」すると少し照れたように「おっぱいはね、赤ちゃんのものなの」と答えた。「じゃあ、お礼に風雅のことを赤ちゃん抱っこしようか」。すると少し恥ずかしそうに「お願いします」と僕の腕の中に入ってきた。何か健気で、ちょっと泣けた。
何が良かったのかなと、時々夫婦で不思議がる。出産に立ち会ったのが良かったのかも。あの時の約束が心に焼き付いているのかもしれない。結局は分からないまま。「あー、風雅みたいなお兄ちゃんが欲しかった」と本気で羨ましがって終わるお互い第一子の二人。
でも間違い無いのは、それからずっとジェントルマン。自分のおもちゃも、最後の1個になったお菓子も、よほどのことがない限り「くるみ、いいよ」と譲ってしまう。もちろん手を上げて泣かしたことなんて一度もない。僕にも妹がいるけど、そんな立派だった記憶はない。いい兄でいることが、逆にストレスになってないか心配になることも。だからうちには、その日はなんでも兄優先の「風雅ファーストデイ」もある。
3月のある日、風雅とお風呂で話した。「くるみも春から小学生だね」「もう小学生だからさ、いつまでも僕に甘えないでほしいよ」「そうだね。風ちゃん、いつもありがとう。これからは、くるみも我儘言わなくなるといいね」
「さて、出るかな」風雅は扉を開けながらこう続けた「1年生は校舎の2階。困った時、3年生の僕は3階にいるからって言っといて」。何かかっこよくて、ちょっと泣けた。
PROFILE
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名古屋市在住。編集者。2児のパパ。写真が大好き
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(制作 * エチカ)